姉歯氏の間違った選択

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●最近の意匠屋さんから良く聞く言葉
意匠屋 「田中さん。ここの納まり、なんとか、こんな感じに出来ませんか?」
私 「ん~、本当は、前の納めの方が構造的には良いんですが。うん。でも大丈夫でしょう」
意匠屋 「あの~断っておきますが、プレッシャーじゃぁないですからね・・・」
私 「あははは・・・はぁ~ぁ。」
と、こんな毎日ですが、今日もガンバっていってみましょう。
●姉歯氏のいいわけ
ご存じのように先日、証人喚問がありまして、久々に現れた構造設計者の姉歯氏。意外と元気そうでしたね。有る意味吹っ切れた感もあり、素直に質疑応答していたように感じました。
姉歯氏
「始まりはプレッシャーをかけられ、1級建築士の誇りもあり、そういうことはできないと思っていた。9割以上木村建設絡みの仕事を請け負っていたので、仕事を断るということは収入が限りなくゼロになる。そこで葛藤した。本来は絶対にやってはいけないとわかりつつ弱い自分がいた。」
どうもテレビ等では黒幕を作りたいのか、姉歯氏に同情的な番組構成になっている感じがする時があります。
私は構造事務所に勤めていた10年間に、やはりそれなりのプレッシャーを受けた事があります。限度はあるにせよ、おそらくほとんどの構造屋さんは経験があると思います。
こんなプレッシャーを回避するには2つ方法があります。
1.仕事自体を断る。
2.意匠設計者を説得する。
設計事務所に勤めている立場の時は仕事を断るという権限がありませんので、あとは意匠設計者を説得するしか選択肢がありません。しかし、姉歯氏のように自分で設計事務所を経営していれば、仕事を断る選択肢もあった訳です。
●その時私はどうしたか?
まずは当然、意匠設計担当者を説得する所からはじめます。なぜ構造的に難しいか、工学的立場から根拠などを含め説明します。また構造設計は絶対的なものではないから、無理はなるべくしないほうがいい事も伝えます。
でも向こうもそう簡単には引き下がりません。他の構造屋さんは出来たとか、法律が色々変わってるにも関わらず、以前は出来たとか、技術的な話以外の内容で、言葉を変えてプレッシャーをかけてきます。
私の場合、自分が構造的に難しいと思う理由をちゃんと説明して、それに対して工学的な反論でなく、ただ威圧的に変更を要求してくるばあい、もはや技術的な話は通用しないと判断し、力技で説得するしかなくなります。
例えば、今までの構造トラブルを実例をあげて、意匠の方に逆にプレッシャーをかけていきます。つまり構造で無理をする事のリスクを具体的に伝える作業です。
最近はネットなどで欠陥住宅やトラブル、裁判の事例等が結構公開されていますので、そういうのを良く頭にいれておく必要があります。そして少し大げさに言う訳です。
これでもダメな場合は、机をバーンと一発たたいてェ「出来ないって言ってるだろーがぁ!」・・・・すみません。今のはちょっと妄想でした。そんな事を言う度胸はありません。
他にも色々やり方はありますが、これって建築の技術的な話でなくて、まさに人間力というか、交渉術というか。そういう話です。
さて、今現在はと言うと、私は独り立ちしましたので、仕事を断る事ができますが、実はあまり仕事を断る事はありません。なぜなら、上記で説明したような極端に無理をいう意匠設計者を最初から営業の対象から外しているからです。
やはり、危険な設計は、人の手で作られますので、とにかく一緒に仕事をする方の技術力と人柄をよく見て「この人は危険だな」と思ったら、おつき合いしない。これが一番安全です。
●間違った選択
姉歯氏の話にもどします。
彼の言葉にこんな表現があります。
「(木村建設の)仕事を断るということは収入が限りなくゼロになる」
まずこの考えがどうかしてます。別の会社に営業すればいいだけでは?なんで木村建設からだけしか仕事がもらえないのでしょう?もし技術力はあるけど、営業力がないという事なら、経営はあきらめてサラリーマンに戻ればいいでしょう。資格もあるし技術者なんですから戻れます。
偽造をしなくても収入を得る方法はあったはずです。つまり彼には、収入を得るための手段として、
・意匠設計者をあらゆる手段を使って説得する
・他の会社に営業して仕事を受注する
・サラリーマンに戻る
・計算書を偽造する
この中から、偽造を選択しただけです。偽造をする事でどれだけ自分にとっても一般消費者にとってもリスクのある事か。
なぜ他人に迷惑をかけてお金を稼ぐ事を選択するのか。他にもお金を稼ぐ方法があったのに。
最後に、私がたまに友人に話す言葉を紹介します。
「お金を稼ぐには2つ方法がある。一つは人に喜ばれ感謝され、そのお礼としてお金を貰う方法。そしてもうひとつは、人を苦しめ悲しませて、お金を手に入れる方法。私たちがどちらを選ぶべきかは悩む余地はないよね。」
あたり前の事ですが、技術者としてと言うよりも人として、そんな当たり前の事を忘れずにいたいものです。

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