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ゼロコスト高耐震化技術 2006.10.03

耐震性能不足がもたらすもの(続き)


耐震イメージ画像
耐震イメージ画像

 

 

  1. 01一般消費者の場合
  2. 02デベロッパー、建設会社、
    設計事務所の場合
  3. 03ファンドの場合
  4. 04民間確認審査機関の場合
  5. 05特定行政庁や国の場合
  6. 06実際の地震とは別の怖さ

前回、耐震偽装事件後に、耐震構造に対しての要求や質問、またお金のかけ方が変わったというお話をしました。
感情的になり、今だけ耐震について神経を使っている訳ではなく、ある程度定着してくるのではないかと感じています。
また不安を感じているのは、一般消費者はもちろん、建築に関わる全ての人たちです。
例えば、デベロッパー、建設会社、設計事務所、ファンド、民間確認審査機関さらには特定行政庁に、国までも・・・いままで、あまり真剣に「構造」という言葉を発しなかった人々が二言目には「構造、構造」って言ってます。
実際に大きな地震が来たわけでもないのに、なぜでしょうか?

一般消費者の場合

まず、あの事件で最も被害を受けたのが、一般消費者である、マンションやホテルの購入者だと思います。
その被害は、まだ建物が新品同様で傷一つない状態にも関わらず「この建物は欠陥品です。
使用できません」って世の中に言われ、結果として、その建物に払ったお金は戻ってこず、借金だけが残ってしまいました。 地震もきてなくて無傷なのに資産価値が¥0なのです。
想像してみてください。
何十年もローンを組んでせっかく買った夢の建物が欠陥品で資産価値が一夜にして ”¥0” に変わる恐怖。
実際には¥0ではないでしょうが、たしかに怖い・・・
いままでも「欠陥住宅」などといってテレビなどで取り上げられますが、通常は実際に建物になんらかの損傷が発生して初めて「欠陥住宅」となり問題になります。
今回は新品同様の状態。
一般消費者は数千万というお金を使って購入するにもかかわらず「構造設計?何それ?食べれるの?」って感じだったと思います。
それが、連日テレビで「構造設計」「構造計算」といった言葉を聞き、世の中に構造設計者がいるという事を知り、またその構造設計者の善し悪しで建物の資産価値にまで影響するという事を学習しました。
さらに、今の建築システムには非常に問題があり、それがなんら是正されないまま、何十年も前の法律で運用され続けてきた事もわかってきたようです。

デベロッパー、建設会社、設計事務所の場合

今回の事件の中で加害者的な扱いを受けてきましたが、実は意図的な犯行には関与していないとなる様です。
でも当然責任はある訳で、その代償はあまりに大きなものとなりました。ほとんど一連の事件に関係した会社は潰れてしまったのではないでしょうか?
構造の事が全然わからなかったばっかりに、偽装事件引き起こす事になり、その責任は、普通の会社では存続できないほどの大きさになる事を建物の供給側が、今更ながら学習しました。

ファンドの場合

ファンドの場合は、もっとシビアです。物件を購入する前に、建築専門のコンサルをバックに付けて、建物の供給者に、あれやこれやと質疑応答の嵐です。
今までは構造の話しなんてあまり無かったのが、あきらかに構造の専門的知識をもった人間とのやりとりになっています。
さらに、民間に審査機関はダメだとか、構造の再計算をするからプログラムの名前を教えろとか、もう大変です。
ファンドの方たちは今回の事件の中には登場していませんでしたが、想像してるのだと思います。
自分たちが運用している建物で耐震性が不足している建物が出てしまったらどうなるか?
そんなファンドに誰がお金をだしてくれるでしょうか?
あっという間に解散になる可能性だってあるかもしれません。

民間確認審査機関の場合

結局審査機関も全然本筋とは違う話で責任を取らされたような感じになり、会社はなくなってしまいました。
またその審査の内容をいろいろな人たちに責められ、仮に存続できたとしても経営は厳しかったでしょう。
あちこちで確認審査機関の構造審査係の求人を見かけます。
いままで内部に構造の技術者がいなかったので募集しますって事ではないと思いますが・・・。

特定行政庁や国の場合

お役人さんたちが一番嫌いなのが責任を取らされる事です。
責任を取らなくて済むように一所懸命考えて仕事をしています。
なので過去に実績のない事は基本的にやりたがりません。時には、工学的、経済的、時代的に、つじつまがあわなくても、物事がスムーズに運ぶ設計を好みます。
行政は確認審査をちゃんとやらないと、責任を取らされるかもしれないと考えるようになりました。
消費者に訴えられるかもしれない。いや実際に訴えられたりしてますね。
そして、お国もさすがに今回はビビッてしまったと思います。
今の時代にあわない法律を知らんぷりしてほったらかしにしてきた事で、お役人だけでなく、政治家の所まで責任が及びそうな状態になりました。
この事件も、別のタイミングで、また別の流れで公表されていたら、国家賠償になるかもしれないとさえ、感じたかもしれません。ある意味紙一重だったように思います。
ですから、構造に関した法令を改正しまくってます。
我々の仕事が忙しくなるような改正ばかりです。法令が変われば業界もそれに合わせた体制にしていかなくてはいけなくなりますら、必然的に構造重視の環境は定着していくでしょう。

実際の地震とは別の怖さ

耐震性が不足する事で受ける被害は、当然地震が来て建物が壊れて初めて被害になるはずですが、この事件の後は、「耐震性が不足していると地震がこなくても別の被害が発生するよ」と言うことを私たちは学習しました。
別の被害とはつまり
・一夜にして資産価値がなくなったり
・経営が難しくなり会社がつぶれたり
・損害賠償責任が発生したり
一言でいうと「責任とお金」の問題につきるのかと思います。
「なんだみんなが心配してるのは、地震じゃなくて、責任とかお金の話しかい?」
もちろん今まで通り実際の地震を心配している方はたくさんいると思いますが、ある意味、別の心配のタネが増えたので、構造に関する需要が増え定着しつつあるのではないかと推察しています。
「いつ来るかわからない地震リスクにはなかなかお金は出せないが、自分の財布から莫大なお金がなくなるリスクのためならお金を出せるよ。」
私が言った訳ではありませんが、一庶民としてはちょっと理解できる言葉ではあります。

田中 真一
SHINICHI TANAKA

代表取締役

執筆者の詳細

さくら構造(株)は、
構造技術者在籍数日本国内TOP3を誇り、
超高層、免制震技術を保有する全国対応可能な
数少ない構造設計事務所である。
構造実績はすでに5000案件を超え、
近年「耐震性」と「経済性」を両立させた
構造躯体最適化SVシステム工法を続々と開発し、
ゼロコスト高耐震建築の普及に取り組んでいる。