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■ さくら構造 社員インタビュー - (入所7年目)




さくら構造 第二設計室 室長 (入所7年目)の仕事についてご紹介いたします。

(について)
(36歳)。北海道最大の農業地帯、十勝支庁 浦幌町の酪農一家に生まれる。大学卒業後、道路公団の子会社に就職。サービスエリアや料金所などの設計に携わる。「この頃は、意匠、構造、設備、施工監理の全てを担当しました (談)」。その後、28歳でさくら構造に入所。構造技術者として、マンションや商業ビルなど40棟、立体駐車場、ゴミ処理場、肥料倉庫など特殊建築物 約10棟、合計50棟の構造設計を手がける。2年前に、第二設計室 室長に就任。部下10名を率いて年間 約90棟の構造設計を手がけている。趣味はパソコン・インターネット。

■ にとっての「印象に残っている仕事」

― さんにとっての「印象に残っている仕事」を教えてください。

個人的に印象に残っているのは、「クライアントからのクレームに対応して、会社を『損害賠償寸前』の危機から救ったとき」の仕事です。


■ 一部上場企業からのクレーム

― 「会社を『損害賠償寸前』の危機から救った」とは具体的には。

数年前に、とある一部上場の機械製造企業から、「工業用水槽の構造設計をしてほしい」という依頼が舞い込みました。

その構造設計は、最初、私ではない、他の社員(※ 現在は退職)が行いました。しかし、提出した設計図書に対し、先方の担当者から「計算内容がおかしくはないか?」とクレームが入りました。

その後、クレームがこじれて、「場合によっては、責任を取っていただきます(=損害賠償してもらいます)」とまで詰め寄られたので、社長の指示により、私がテコ入れに入りました。

その後、最初に提出された設計図書の内容を精査し、先方に論理的に説明をしました。その結果、損害賠償の危機は回避できました。


■ その時、依頼された仕事の内容

― まず、その時、依頼された、「工業用水槽の構造設計」という仕事の概要を教えてください。

クライアントからは、工場の敷地内に、容積2000立方メートルの巨大な工業用水槽(プール)を作るので、それを設計してほしいと依頼されました。

この工業用水槽の詳細は次のとおりです。

項目 内容 備考
寸法 幅10メートル
長さ20メートル
深さ10メートル
材質は鉄筋コンクリート、は約80センチ。
すごく深い25mプール、という感じです。
設置場所 工場敷地内。
土中に埋没させる。
水槽の上部は、鉄製のフタで覆います
(この部分は構造設計とは関係ありません)
施工 施主指定の施工会社が工事 さくら構造は設計のみ担当。
施工監理はしていません。
審査の有無 なし。 今回の水槽は「工場敷地内の設備」なので、商業ビルやマンションを建築する時のような、「確認審査機関による審査」はありませんでした。つまり、クライアントがOKといえば、それでOKです。
水槽の用途 冷却水の保管? 詳しくは分かりませんが、おそらくは冷却水など、工場の生産過程で使う水を保管するための水槽だと思います。
デザイン性 なし 外観にデザイン性はありません。
単なるコンクリート製の水槽、プールです。
設備 なし 電気系統、機械系統など特殊設備はありません。単なる水槽です。
耐震設計の必要性 ほぼなし 土中に埋没している水槽ので、台風や地震による破損、倒壊の危険はほぼありません。ただし側壁には、それに接する地面から横向きの圧力がかかるので、それに耐えるための構造設計は必要です。

■ 最初は、ある中級技術者が構造設計を担当

― 説明を聞くと、何だか「簡単な仕事」のように思えるのですが…

はい、私も同感です。これ、簡単ですよ。

だって、「形は、単なる長方形。計算は超単純」、「意匠性も設備もなし」、「土中埋没型なので倒壊の恐れもなし」、「地震の影響も軽微」、であるわけですから。

田中社長も、同じ感想でした。というわけで、社長は、この仕事を、クライアントの所在地に近い場所にある、弊社の、ある地方拠点に勤めていた、技術者(Aさん)に割り当てました。


■ クレームの原因は、説明力不足

― そんな簡単な仕事なのに、なぜその中級技術者Aさんは、クレームを招くほどのミスをしたのでしょうか。

いや、実際にはAさんは、構造解析の作業ではミスはしていません。彼の解析、計算は合っていました。

クレームが発生したのは、Aさんに説明力がなかったせいです。


■ クライアント側の指摘に対し、「黙り込んでしまう」

― 「Aさんに説明力がなかったせいで、クレームになった」とは具体的には。

事の経緯はこうです。

まずAさんは、構造設計の作業を終えた後、納品物の設計図書を、先方の担当者(おそらくは工場の施設管理課の人)に提出しました。

その後しばらくして、その担当者から、Aさんに、「社内の構造設計に詳しい社員(※)から、『この構造計算書は計算がおかしいのではないか』、『この設計では無駄に高コストなのではないか』と疑問が出されている。これに対応してほしい」連絡がありました。

この時点では、クライアントからの指摘は、まだ「問合せ」「確認」であり、「クレーム」には至っていません。Aさんが、問合せに対し、「いえ、計算は間違っていません。なぜならば…」と理論的に説明(反論)できれば、それで話は終わりでした。

ところが、Aさんは、その説明(反論)ができなかった。黙りこんでしまったのです。

※ 製造業の大企業には、一級建築士の資格を持つ社員がいることは珍しくありません。

■ 最初は好意的だった担当者も、次第に態度が硬化


― それはクライアントから見て、相当にイメージが悪いのでは?

はい、イメージ悪いです。

先方からは「構造計算がおかしいのでは?」と言われているのに、それに反論できないようでは、向こうからすれば、「じゃあ、ミスを認めるということですね!?」となってしまいます。

クライアントの社内で、「この設計事務所、大丈夫?」という形で、一気に不安が高まりました。

施設管理課の担当者は、最初はAさんの味方をしてくれていました。しかし、社内で、「なぜ、こんな会社を選んだのか?」と風当たりが強くなるにつれ、その担当者も、次第にAさん(さくら構造)に対し、厳しい態度を取るようになりました。

さらに良くないことに、その時点で、先方の工場で、水槽の建設資材が、すでに先行発注されていました。


■ 「資材先行発注」の恐怖

― 資材が先行発注されていると、なぜ良くないのですか。

設計にクレームがついているのに資材だけは先行手配されている…。これは、最悪の場合、「余り資材」、「不要資材」が発生して、クライアントに多額の金銭的被害が生じることになります。

先方の担当者からも、「場合によっては責任を取っていただくことになるかもしれません」という厳しい言葉が発せられました。つまり、損害賠償を求めることもありうると。

事態がここに至り、Aさんは、「もう自分だけでは対応できない…」と悟ったのか、田中社長の携帯に電話して状況を緊急報告しました(※)。

※ 正確には、Aさんが直属上司に報告し、その上司が田中に報告、相談しました。


■ まず「事実状況の認識」から着手

― 田中社長は、その緊急報告を受けて、どう思ったのでしょうか。またその後、どんな行動を取ったのでしょうか。

報告があったのは日曜日で、その時、社長は出張中だったたそうです。社長は、「資材が先行発注された」という事実を聞いて、「これは一分一秒を争う超緊急案件だ」と判断したそうです。

そして社長から私の携帯に電話がかかってきました。私も「資材が先行手配された !?。これはまずい」と感じました。社長は「さんに任せる」と言います。やるしかありません。

最初にやるべきことは、「事実状況の認識」だと考えたので、まずはAさんが作成した構造計算書を分析することにしました。


■ まず「超単純な手法で、ざっくり解析」


― そのときの分析の方針を教えてください。

最初に明らかにしたかったのは、「はたしてAさんの構造計算は合っているのか。それとも間違っているのか」ということでした。

それを明らかにするために、まず私の方で「超単純。超ざっくり。算数レベルですぐ計算できるが、そのかわり誤差も発生する」という計算手法を使って、「おおざっぱな計算」をしてみました。

その計算結果と、Aさんの計算結果を比べることで、Aさんの作業の正否を判定しようと考えたのです。

私の計算結果と、Aさんの計算結果はほぼ同じでした。「たぶんAさんは間違っていない。間違っているのは、クライアントのクレームの方だろうな」と思いました。


■ 誤差があっても、正確な判断が下せる、その理由

― 「超単純で誤差も発生するような計算手法」を使ったのとのことですが、そんないい加減な計算で、果たして正確な結論が出せるのでしょうか。

出せますよ。

恐縮ながら指摘すると、今の質問は前提が間違っています。

というのも、構造計算の場合、どんな計算手法を使おうと、誤差は必ず発生するからです。

必要なのは、それぞれの計算手法について、それに付随する誤差が、どんな原理で、どの程度、発生するのかを、あらかじめ認識しておくことです。その認識があれば、計算結果を補正した上で、正しい認識に到ることができます。

この時は、資材が先行手配されていたので、時間をかけて精密な計算をしている余裕はありませんでした。そこで、まずはシンプルな計算手法を使って、「ざっくりした、しかし芯の通った認識」を持つことを図ったのです。


■ 「最初の構造計算で間違っていない(クレームの方が間違っている)」という中間結論

― 「ざっくりした結論」を出した後は、何をしたのですか。

その次は、「もう少し精密な計算手法」で解析しました。その計算結果も、やはりAさんの計算結果と同じでした。

2回目の検算でも同じ結果がでたので、「Aさんは間違っていない」という確信がさらに深まりました。

次に行ったことは、「Aさんとクライアントのメールやりとり」 の精査です。


■ メールを精査して、相手の計算手法を予測

― メールを精査した目的を教えてください。

メールを精査した目的は、「クレームを発している、クライアント側の『構造計算に詳しい社員』が、どんな計算手法を使っているのか」を知ることでした。

メールを読み込んだ結果、その人が使っている計算手法は、ほぼ推測できました。

しかし、その計算手法を使い、かつ誤差補正を行わない場合は、Aさんや私の計算とは違う結果が出ます。彼が、Aさんの計算結果をおかしいと思った理由は、おそらくそれ、「自分の計算手法に伴う誤差への認識が甘い(あるいはない)こと」だと推測しました。

ここまでで、「Aさんは間違っていない(間違っているのはクレームの方)」 という仮説がほぼ固まりました。後は、この仮説を検証するだけです。

そのために、「クライアント側の技術者が作った構造計算書」 を見せてもらうことにしました。


■ 相手側の構造計算書を精査して、最終確認

― クライアント側の構造計算書を見て、いかがでしたか。

クライアント側の構造計算書を見たところ、こちらの予想通りの計算手法を取っていました。また誤差を見落としている点も予想通りでした。

以上で仮説の検証は完了。さくら構造としても理論武装が完了しました。

先方の担当者には、「Aさんが最初に提出した構造計算書で間違っていない」ということを、根拠をもって、説明しました。カドが立たないよう表現に気をつけつつも、主張するべきは、明確に主張しました。

その結果、先方の担当者(および技術者)にもご納得いただくことができました。こうしてさくら構造は損害賠償の危機を免れたわけです。


■ なぜAさんは、最初、クライアントの質問に答えられなかったのか?

― 正しい計算をしていたAさんが、クライアントからの質問(クレーム)に対し、回答できず、黙ってしまったのはなぜでしょうか。

理由は、Aさんが「あまりにもややこしい計算手法」を使っていたからです。

背伸びして、複雑な方法を使って、一応、正しい結果は出せたものの、ちょっとツッコミを入れられると、答えられなくなってしまった。これがAさんの敗因です。


■ 無意味に高級な手法を使っていた

― Aさんはどんな計算手法を使っていたのですか。

Aさんの計算手法(モデル化)は、メッシュを細かく切って物体を表現するFEM解析というものです。次の図のようなイメージです。



最初にAさんの設計図書を見たときは、「あ~あ、こんな単純な形状の建築物を解析するのに、なんで、こんな複雑な方法を使うんだろうか。」と思いました。


ちなみに、いちばん最初に使った「超簡単な計算手法」というのは、大きくは、1).プールを横から見たU字型の断面図に対し、構造計算を行う、2). プール全体は、そのU字型を延長した上で、両端に四角い板を付けたものと見なす、というものです。右図のようなイメージです。

比喩的にいえば、この計算手法は単純な1次元、Aさんの計算手法は複雑な3次元です。

また、クレームを出してきた、クライアント側の技術者の計算手法は、敢えていうなら、その中間の2次元。私が2回目の検算の時に使った手法は、2.5次元とでもいえるでしょうか(あくまで比喩ですが)。


■ 計算手法に「違い」はあっても「優劣」はない

― Aさんの3次元的手法、クライアント側の技術者の2次元的手法、超単純な1次元手法、さんが使った2.5次元手法…、結局、どの計算手法がいちばん優れているのでしょうか。

どれがいちばん優れているということはありません。そもそも計算手法には「違い」はあっても「優劣」はありませんから。

構造技術者は、それぞれの計算手法の長所と短所(誤差)を認識した上で、その場その場で、最適の方法を選べば良いのです。


■ 計算手法 = モデル化

― 計算手法に「違い」はあっても「優劣」はないということを、もう少し詳しく説明してください。

では、「柱」の構造計算を例にして説明してみましょう。

次の図のような装飾の多いローマ風の柱の構造計算をするとします。どうアプローチしていくか。

まず行うべきは、この柱を「モデル化」することです。

ここまでは、「計算手法」という言葉を使ってきましたが、個人的には「モデル化」 という言葉の方がしっくり来ます。


■ モデル化は多種多様

― モデル化とは何ですか。

モデル化とは、「建築物の形状を、それに加わる力の流れが計算しやすいよう、単純化すること」です。モデル化には様々な方法があります。

ローマ風の柱の場合であれば、最も無難なモデル化は、一本の円柱と見なすことです。

しかし、それが唯一絶対の方法でははありません。別に、マンションや商業ビルの柱のような、直方体でモデル化してもぜんぜん構わない。

究極的には、「一本の直線」に見なすことだって可能です。

Aさんが使ったFEM解析もモデル化の仕方に特徴があります。

FEM解析にも長所はありますが、正直、今回のような「ほとんど直方体のプール」の解析で、このようなメッシュで細かく区切る方式を使う必然性は、まったくありません。


■ プロとアマの違いは、誤差の取り扱いに現れる


― しかし、ローマ風の柱のような複雑な形状を「一本の直線」で表現するのは、少々、極端すぎないでしょうか。

いえ、問題 ありません。

そもそも、「極端すぎるから良くない」という、話の前提がおかしい。極端なモデル化をすることで、力の本質的流れがハッキリ見えることもありますから。

構造計算におけるモデル化(抽象化)とは、「建築物から、力の流れを判断するためには不必要な具体物を、すべて捨象すること」です。実際の建築は、具体的物体なので、その中を伝わる力は、抽象化したモデルの中を伝わる力とは必ず異なりますが、つまり誤差があるわけですが、良い構造技術者であれば、計算結果にその誤差を織り込むことで、全体の整合性を確保することができます。

モデル化とは「手法」であり、手法とは、つまり「道具」です。

プロの構造設計技術者は、自分が使うモデル(道具)の特性や誤差を熟知しています。一方、アマチュアは、誤差への認識が不十分なので、計算結果を補正することができません。

プロとアマの差は、「道具の使い方」を見れば分かります。構造計算の場合は、「モデルの選び方」、「誤差の織り込み方」を見れば、その技術者の腕前が分かるのです。

さらに言い換えます。一流の構造技術者は、「自分が何をしているか」を分かっています。だから、どんな質問にも答えられるのです。しかし、二流の技術者は、自分が何をしているのか自分で分かっていません。だから、質問されると立ちすくんでしまうのです。


■ この仕事を振り返って


― 今回の「水槽事件」を総括してください。

損害賠償の危機を回避した時点で、社長と話したのは、「今回の仕事で、最も良くなかったことは、『Aさんが質問に答えられなかったこと』ではなく、『Aさんが質問に答えられていないことを、自分たち上層部が早期に気づけなかったこと』だ」ということでした。

私たちが、Aさんの抱えている問題をもっと早期に認識できていれば、クライアント側で資材が先行手配される前に、もっと早めに手が打てていたでしょう。そうすれば、問題はここまで大きくならなかったはずです。

この事件が起こった後、さくら構造では、「担当者と顧客がやりとりしているメールは、すべて管理職が日常的に閲覧できる」という仕様に、社内システムを変更しました。

これにより、その後は、問題の早期発見が促進されています。

以上、私にとっての「印象に残っている仕事」についてお話ししました。は、今後とも構造技術者として、また第一設計室のリーダーとして、技術力とマネジメント力をさらに向上させていく所存です。みなさま、引き続き、よろしくお願いします。


※ 取材日時 2014年8月

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