その「外部からの力」として、通常の構造計算が「ある大きさの単純な力」を想定するのに対し、時刻歴応答解析(地震応答解析)では、時と共に変化するリアルな地震波を使ってシミュレーションすることで、より精密な解析を実現します。
Interviewエンジニア職
新しいことが好き。ただいま時刻歴応答解析(地震応答解析)に取組み中。
山本 健介
2008年4月入社
1978年北海道札幌市生まれ
大学卒業後、地元の小規模の住宅メーカーに勤務。
2008年にさくら構造へ中途入社
- 印象深い二つの仕事
- 時刻歴応答解析(地震応答解析)について
- 難しいけれど面白いことの方が多い
- 新しい概念、新しい数式、新しいプログラム
- 難しいことが楽しめる理由
- 最初はボコボコにされたけど
- 後輩技術者へのアドバイス
印象深い二つの仕事
Q) 山本さんの今まで「印象に残っている仕事」を教えてください。
「印象深かった」という意味では、「初めての耐震診断のときに1回目はボコボコに言われたけれど、2回目には挽回、合格できた経験」がそうです。 「いま熱心に取り組んでいる」という意味では、「時刻歴応答解析(地震応答解析)が必要になる案件」です。難しい技術が学べるのでワクワクしています。
時刻歴応答解析(地震応答解析)について
Q) 「時刻歴応答解析(地震応答解析)」とは
構造計算とは、地震をはじめとする外部からの力に対し、建物を耐えさせていくための解析です。
通常の構造解析では、地震の影響を「外部から建物にドンと加わる大きな力」と見なします(左図 上イラスト参照)。 この力の大きさは、法令により定められています。構造技術者は、その「予め法律で決まっている大きさの力」に対し、建物が耐えられるかどうかという観点で、計算します。
しかし、地震による実際の力は、そうした「ドンと来る力」ではなく、大きくなったり小さくなったりする波、地震波です。 そこで時刻歴応答解析(地震応答解析)では、「波状の力」を仮定した上で、それに建物がどう耐えていくかをシミュレーションします。
どのような波を想定するかは、法令によりいくつかサンプルが決められていますが、実際の時刻歴応答解析(地震応答解析)では、それに加え、構造計算技術者自らが現地の地盤の土質、強度をもとに「(法令によるサンプルとは別の)オリジナルの地震波」を想定し、それを使って計算します。
波は時間と共に強くなったり弱くなったりします。 このように「時刻経過に伴う変化の概念」があることが、通常の構造解析との違いであり、また「時刻歴」応答解析という名前の由来でもあります。
そして地震波には、建物が「応答」します。固い建物は早く揺れますし、柔らかい(粘度の高い)建物は、しなってゆっくり揺れます。 建物がどこまでしなり、どれほどの揺れ幅、スピードで揺れるのかは、地震波と建物の相互応答により決まります。これが時刻歴「応答」解析という名前の由来となります。
現在、60メートル以上の高層建築の構造計算では、時刻歴応答解析(地震応答解析)を使うことが法律により義務づけられています。
時刻歴応答解析(地震応答解析)は、扱う手法や概念が複雑で、計算量も多くなり、特殊なソフトウエアを使いこなす必要もあるため、これができる技術者はそれほど多くありません。 さくら構造の本社がある札幌市では、時刻歴応答解析(地震応答解析)ができる技術者は、全体でおそらく50人もいないと思われます。 さくら構造では、2015年現在、時刻歴応答解析(地震応答解析)ができる技術者は、6名です。
難しいけれど面白いことの方が多い
Q) 時刻歴応答解析(地震応答解析)はどういう点がやってて楽しいですか。
時刻歴応答解析(地震応答解析)は私にとって「未知の世界、難しい分野」であり、もちろんつらい部分もありますが、それ以上に面白いことの方が多いです。 私の心の中では「難しくて、つらいな~」と思うより、「面白い!」と思える気持ちの方が勝っているのです。
学生時代から数学や物理など理系教科が好きでした。 物理は、表面的には種々雑多な現象の、その背後にある本質を、数式を使って解明できる点が好きでした。 また数学も、社会や国語など曖昧な文系教科に比べ、常に答が明快である点が性に合いました。
余談ですが、昔からコンピュータゲームが好きで、特にパズルものが好きです。 最近は恥ずかしながらパズドラにはまっています。 時刻歴応答解析(地震応答解析)の楽しさも、数式好きや謎解き(パズル)好きの延長線上にあるような気がします。
あと、時刻歴応答解析(地震応答解析)は概念が楽しいですよね!
新しい概念、新しい数式、新しいプログラム
Q) 「概念が楽しい」とは具体的には?
応答スペクトルとか、鉛直振動バネとか、統計的グリン関数法とか…、新しい言葉、概念が次々に出てくるのでワクワクします。
時刻歴応答解析(地震応答解析)では、通常の構造計算よりも、概念の抽象度が高く、数式がとっつきづらく、また特殊なソフトウエアの使用方法も覚える必要があり、最初のプログラミングはなかなか大変です。
でも、そこがいいんですよね。 技術者の中には、時刻歴応答解析(地震応答解析)は、未知のこと、覚えることが多すぎて、面倒くさいから関わりたくないという人も多いのですが、でも、私としては「そこが面白いのに」と思います。
難しいことが楽しめる理由
Q) なぜ山本さんは新しいこと、未知のことを「面倒くさそう」ではなく「面白そう」と思うのでしょうか。
格好良くいえば、「自分を高める」とか「会社の期待に応える」とかになりますが、たぶん、それより「知的好奇心」なんだと思います。
新しいこと、やったことがないことには興味津々です。 最先端の理論に触れるのは楽しいし、難解な理論が理解できたときには大きな充足感があります。
私は「時刻歴応答解析の技術者」としてはまだ駆け出しで、今は覚えることだらけの状態ですが、でもそれは「当分、飽きない」ということでもあるので、かえって嬉しいです。
最初はボコボコにされたけど
Q) もう一つの印象深い仕事、「初めての耐震診断のときに1回目はボコボコに言われたけれど、2回目には挽回、合格できたこと」とは。
これは新人時代の苦い思い出です。
埼玉県で耐震診断の仕事を初めて担当したとき、一回目の判定会では、審査員に欠点、指摘されまくり。 ボコボコのサンドバッグ状態で終わってしました。
正直ショックでしたが、でも、それと同時に、「あ、なるほど、そうなのか!、そういうことだったのか!、へ~、ほお~」といように、審査員の厳しい指摘の数々を、「新しい発見」として、知的好奇心を持って吸収している自分にも気がつきました。
審査員の話を聞きながら、自分のバカが取れていく喜びというか、とにかく、指摘をよく聞いて、山ほどもらった宿題を自分なりに解決して、再提出したら今度は一発合格してしまいました。
クライアントの設計事務所さんは、一回目の提出が惨敗だったのを横で見て先行き不安だったそうですが、2回目があまりに鮮やかに一発合格だったので、かえってビックリしたそうです。 判定会が終わった後「すごいね!」と褒めてもらえました。
たぶん私は、割合に「コケても自分で起き上がれるタイプ」だと思います。
後輩技術者へのアドバイス
Q) いつかは時刻歴応答解析(地震応答解析)に挑戦したいと考えている後輩技術者に向けて、先輩としてアドバイスなどあればお聞かせください。
知的好奇心、探求心が大事で、それさえあれば何とかなります。 逆にいうと、それがないとツラいです。
不慣れな概念、未知の言葉、特殊なソフトウエア。 最初はとっつきにくいですが、ハマると面白いし、飽きません。 食わず嫌いをせず、一度トライしたらいいと思います。