菅野 丈志−TAKESHI SUGANO−
ダンドリの菅野
前職、現場監督時代に培った施工への理解力。
「納まり」の感覚。
菅野 丈志(35歳)。北海道、渡島支庁、長万部の公務員一家で3人兄弟の2番目として生まれる。
函館市の工業高校を卒業後、同市の大手工務店に就職。
入社以来、10年間、現場監督として活躍し、一般住宅、商業ビルなど約10棟を建てる。
しかし、不況下の現場監督の仕事は、「発注元に値段を叩かれて損した分を、下請けを叩いて穴埋めする」という不毛なことが多く、精神的な疲れを感じて、転職を検討。一級建築士の学校に通い始め、勉強を続ける中で、構造設計という職業に将来性を感じる。
その後、学校からの紹介で、平成20年、さくら構造に入所。
以来、6年の間にマンション、学校、ホテルなど70棟の建物の構造設計を手がける。
札幌市の繁華街 すすきのにあるダイワロイネットホテルは、菅野が構造設計したもの。
高校時代は野球部。現在の趣味も草野球。
自分の中では、「施主から、『建設費を従来比10%減にできるよう、設計してほしい。達成できた場合は、報奨金を支払う』と依頼され、自分の担当部分では、目標を達成できた」という仕事が印象に残っています。
その仕事は、マンション建設の案件でした。2つのデベロッパーが協同施主になるという特殊な案件でした。施主としては、「せっかくの共同事業なので、いつもと違う設計にしたいと考えた」とのことでした。
実は、この時、【全体としては】、建設費用の10%削減という目標は未達に終わりました。費用削減には、「意匠」、「設備」、「構造設計」の三者で取り組みました。
しかし、目標が達成できたのは、自分が担当した構造設計の部分だけだったからです。
この仕事は、上司の山田室長から担当を命じられました。
最初に「建設費用10%削減」と聞いたときには、山田さんには「無理な気がします」と言いましたが、「せっかくだし、やってみよう」と頼まれたので、引き受けました。
根本のところからご説明します。
建設費用とは何かというと、大きくは:
となります。
※ 建設機械のレンタル費なども、広義の「人件費」と見なします。
まず「諸経費」は、自分たち構造設計には関係ありません。次に、「人件費」の、業者選定や相見積もりを通じての削減も、やはり、自分たちには直接の関係はありません。
結局、構造設計を通じて、直接、建築躯体コスト最適化できる領域は「材料費」ということになります。
なお、建築費用の見積もりでは、「人件費」は、「材料費の○○パーセント」として概算することが多々あります。とういことは、「材料費の直接的な削減」は、「人件費の間接的な削減」をもたらすことになります。
大きくは、「柱の建築躯体コスト最適化」に着目しました。
建築物を構造体として見た場合、構成要素の大部分は、柱です。その柱を、耐久性や耐震性を下げずに、建築躯体コスト最適化できるとしたら、建築費全体を大きく削減できます。
何といっても柱は本数が多いですから。
まず両極端の方向性を想定しました。
一つは、「高価な材料を使い、その分、柱の径を細くする」という方向性、もう一つは「安価な材料を使うが、その分、径は太くする」という方向性です。
2つの方針を両極端にする形で、柱の太さを「細い」「やや細い」「普通」「太い」の4種類に分け、4パターンの構造計算を行いました。
その後、4種の計算結果を比較検討した上で、最もバランスの良い案を採用しようと考えました。
おっしゃるとおり、誰でも考えつく、当たり前の発想です(笑)。
今回、自分が建築躯体コスト最適化目標を達成できた、その「勝因」は、「奇抜なアイディア」や「ひらめき」ではなく、「構造設計を、4種類(4回)、確実に実行したこと」だったと思います。
今回の仕事は、納期はいつもと同じですが、でも、構造設計は4回。
これは、よほど段取りよく、計画的に、仕事を進める必要があります。正直、残業や休日出勤も必須になります。なので、自分としては、あまり何度も繰り返したい仕事ではないです。
正直言うと、そういう気持ちも少しありました。でも、上司の命令ですから。
私は、高校時代は、部活が野球部でした。そこでは、基本的に「先輩の命令は絶対」です。
今回も、「上から指示された以上は責任を持ってやり遂げねばならない」と思ったのです。
今回は、まず作業計画を立てました。
構造計算の場合、「計算する順番」が非常に重要です。順番を間違えると、「計算し直し」、「手戻り」、「作業重複」が生じます。それが頻発すると、計算は納期通りに終わりません。
計画を立てたら、実際の作業を始めます。この時、重要なのは、「必ず計画通りにやる」ことです。
作業の区切りごとに、自分の到達位置(進捗状況)を見定めて、もし遅れがある場合には、面倒だなと思っても、残業なり、休日出勤するなりして、遅れを取り戻す…、「まあ、いいや」と決して言わない。そんな地道な実行力が必要になります。
締め切り間際に慌てるのは、好きでありません。仕事は、計画どおりに進めるべきです。
構造計算は「ダンドリ9割」です。
前職の、工務店勤務の経験が生きました。
私は、函館の工業高校を卒業したあと、地元の工務店に入社し、それから転職するまでの10年間、一貫して現場監督の仕事をしていました。
現場監督の仕事は、構造設計よりも、さらに「ダンドリ9割」です。
現場監督は、現場で働いていただく職人さんを、必要な時に、必要な人数だけ揃うよう、事前に確保しなければいけません。また職人さんの作業スケジュールに合わせて、材料も的確に手配しなければいけません。
人を配置しても材料が届かなかったら作業は停滞します。その逆でもダメです。全てがスムーズに、的確に、計画通りに納まるよう管理(監理)するのが、現場監督である私の仕事でした。
その会社では、10年間で、一般住宅やマンションなど約20棟の現場監督を行いました。その経験を通じて、自分の中でダンドリ力が養成されました。
また、この時の経験を通じて、「現場で施工する皆さんの都合や気持ち」、「施工現場での『納まり』の感覚」が理解できるようになったことも自分の財産です。
このことは、施工の経験がなく設計だけをやってきた構造技術者に比べての、「自分自身の強み」だと思います。
お客様への報告・連絡を的確に行うことを心がけています。
「コミュニケーション力」というのは、少し違うかもしれません。「コミュニケーション力」というと、「人の心を開かせる」、「和ませる」、「打ち解ける」などの対人関係力のような印象になります。
しかし、構造計算の仕事での、お客様とのやりとりは、あくまで「業務上の連絡、報告、質問」ですから、共感力や打ち解け力は最重要ではありません。
むしろ必要なのは、必要な情報を、ヌケなく、モレなく、ムダなく、間違いなく、紛れなく、確実に伝達することです(※もちろん礼儀正しく伝えることは前提ですが)。
自分としては、報告や質問は「なるべく最小限の言葉で」行うのが良いと考えています。
その方が、お客様にとって、分かりやすく、効率的だと思うのです。
自分は、8年前に、「構造設計はこれからの世の中で大事な仕事になる」と思ってさくら構造に入所しました。これからも、入所当時の初心を忘れず、これからも、的確、確実に、良い仕事を積み重ねていきたいと思います。
関係者の皆様、引き続き、よろしくお願いします。
取材日 2014.8