山田 将寛−MASAHIRO YAMADA−
人がやりたがらない面倒な仕事、
難しい仕事が大好きですの山田
38階建て、130mの高層マンションの実績。
社内勉強会「串だんごクラブ」主宰者。
山田 将寛(29歳)。札幌生まれ、札幌育ち。建築の専門学校の在学中に「自分は構造設計に向いている」と確信。卒業後は、所員20人の札幌の構造設計事務所に入所。
入社3年目、24歳で結婚。仕事は楽しかったが、上司と反りが合わず、意味なく怒られる日々が続き、最後にはその上司と同じ空間で同じ空気を吸っているのがイヤになり、突発的に退職。三ヶ月ほど仕事もせずブラブラしていたが、奥さんに怒られたので、まずはハローワークに行ったところ、偶然、さくら構造を見つけ、ここ何となく良さそうと思い、25歳で入所。
最初の設計事務所は実質ゼネコンの下請けであり仕事も単調で不満だったが、さくら構造ではバラエティに富んだ仕事ができる点に喜びを感じている。
2012年には高さ130 m 、地上38階建ての札幌最大級のマンションの構造設計を手がけた。若い頃からの音楽ファンで、好きなジャンルはソウル、R&B。
あえて言うならば、「今までやった難しい仕事すべて、めんどくさい仕事すべて」が印象に残っています。
私が目指しているのは、どんな困難な案件、未知の案件でも全てこなせるスーパー技術者になることです。日々、そのために努力しています。
誰もやりたがらない仕事、難しい、めんどくさい仕事が来たときは、全部、私にまかせてください。
強いていうなら「高さ130 m 、地上38階建のマンションの構造設計」、「特殊デザインの商業ビルの構造設計」、「ゴミ処理場の構造設計」が印象に残っています。
これは時刻歴応答解析を使って構造計算した案件です。時刻歴応答解析は現在、自分の中でメインの研究課題です。
構造計算とは、地震をはじめとする外部からの力に対し、建物を耐えさせていくための解析です。
その「外部からの力」として、通常の構造計算が「ある大きさの単純な力」を想定するのに対し、時刻歴応答解析では、時と共に変化するリアルな地震波を使ってシミュレーションすることで、より精密な解析を実現します。
その「外部からの力」として、通常の構造計算が「ある大きさの単純な力」を想定するのに対し、時刻歴応答解析では、時と共に変化するリアルな地震波を使ってシミュレーションすることで、より精密な解析を実現します。
通常の構造解析では、地震の影響を「外部から建物にドンと加わる大きな力」と見なします(左図 上イラスト参照)。この力の大きさは、法令により定められています。構造技術者は、その「予め法律で決まっている大きさの力」に対し、建物が耐えられるかどうかという観点で、計算します。
通常の構造解析では、地震の影響を「外部から建物にドンと加わる大きな力」と見なします(左図 上イラスト参照)。この力の大きさは、法令により定められています。構造技術者は、その「予め法律で決まっている大きさの力」に対し、建物が耐えられるかどうかという観点で、計算します。
しかし、地震による実際の力は、そうした「ドンと来る力」ではなく、大きくなったり小さくなったりする波、地震波です。そこで時刻歴応答解析では、「波状の力」を仮定した上で、それに建物がどう耐えていくかをシミュレーションします。
どのような波を想定するかは、法令によりいくつかサンプルが決められていますが、実際の時刻歴応答解析では、それに加え、構造計算技術者自らが現地の地盤の土質、強度をもとに「(法令によるサンプルとは別の)オリジナルの地震波」を想定し、それを使って計算します。
波は時間と共に強くなったり弱くなったりします。このように「時刻経過に伴う変化の概念」があることが、通常の構造解析との違いであり、また「時刻歴」応答解析という名前の由来でもあります。
そして地震波には、建物が「応答」します。固い建物は早く揺れますし、柔らかい(粘度の高い)建物は、しなってゆっくり揺れます。建物がどこまでしなり、どれほどの揺れ幅、スピードで揺れるのかは、地震波と建物の相互応答により決まります。これが時刻歴「応答」解析という名前の由来となります。
高層マンションの構造計算は単純な話、高層になればなるほど難しくなります。
その難易度を分類すると、大きくは
・高さ45mまで
・45mから60m
・60m以上
となります。
難易度の内容は次のとおりです。
一言でいうと「変な形」のビルでした。屋上部分が大きく欠けており、欠けた部分を覆うようにして、薄い鉄骨作りの屋根、そして壁がかかっている。
建設現地は大型台風もときおり来る場所でしたが、いかにも強風や揺れに耐えにくそうな形でした。この案件の基本スペックは「10階建て、鉄骨造、商業ビル兼共同住宅、床面積4000平米、形状は複雑」というもので、一方、仕事スペックは「納期は三週間、金額はなるべく安く」という、なかなか無茶振りな仕事でしたが、気合いで完了させました。
この仕事は、「異種構造が絡み合う」という点で困難でした。
「異種構造が絡みあう」とは、例えばゴミをトラックから落とす場所がそうですが、底部はコンクリート造でしたが、周囲は柔らかい鉄骨造でした。この場所に毎日、大小様々なゴミがドカーンと落とされます。またゴミ処理の主要部分も、床部の高さがバラバラで、その上に数百キロ~数トンの大小様々な機械・設備が載っています。
通常のマンションの場合、いかに高層とはいえ、構造に一様性、対称性があり、かつ内部では人が静かに住んでいるだけなので、日常的な震動は発生しません。一方、ゴミ処理場は、その真逆で、異種構造が各所で絡み合い、毎日トラックから大量のゴミがドカンと落とされ、それがコンベア上、設備内でバリバリ破砕されまくり、震動しまくりという、特殊かつ過酷な環境です。
高層マンションの構造設計とは、また違う難しさ、面倒さがありました。しかし、私は、そういう案件ほど好物なので楽しく仕事ができました。
一概に回答するのは難しいですが、大きくは「全体を見る力」、「思考の持続力」、「あきらめない力」、「めんどくさいを上回る好奇心」ということになるでしょうか。
そういう能力のことを、「37手詰めの詰め将棋を解くのに必要な力と同じ」と表現した人がいましたが、確かにそうかもしれません。
その人が言うには「37手詰めの詰め将棋を解く場合『全体を見る力』、『思考の持続力』、『あきらめない力』、『めんどくさを上回る好奇心』の全てが必要になる」とのことでした。
詰め将棋の場合、3手詰め、5手詰めなら、初心者でも暇つぶしとして楽しめます。10手を超えると少し辛くなりますが、中級者にとっては「歯ごたえのあるパズル」といった程度の気楽な楽しみでしょう。
しかし「37手詰め」となると、上級者でも、ちょっと構えることになると思います。初級者では、どこからどう着手して良いかすら、さっぱり分からないでしょう。
37手詰めを解くには、いきなり当てずっぽうに着手するのではなく、事前に全体の構造をよく見て、詰め上がりまでのゲームプランを構想する力、「全体を見る力」が必要になります。
次に、何しろ37手詰めですから長時間じっと考え続けなければいけない。ここで「思考の持続力」が必要になります。
ある方法で一生懸命トライしたが結局ダメだった、もう一回別の方法でやり直し、ということもあり得ますが、しかしここで気落ちして投げ出してはいけません。「あきらめない力」が必要です。
そして、この「思考の持続力」「あきらめない力」の源泉は何かというと、「めんどくさを上回る好奇心、探究心」ということになるでしょう。この37手詰めが解きたい。解けると面白いだろうなあ、絶対、解きたいよなあと、この正解を目指す気持ちがもっとも必要です。
もう一つ加えるなら、「きっと解ける」、「大丈夫」と楽観できる、根拠のない自信も必要になるでしょう。「37手詰め?、まあ、難しくはあるけど、でも解けるに決まってるじゃん、オレがやれば」というゴーマンさも重要です。
いつまでも技術を追い求め、いつまでも新しいことに取り組み続けたいです。
構造計算の仕事は、ある程度の技術が身につけば、そこで進歩を止めて、自分の実力の範囲内の仕事だけを引き受けるというやり方でも、食っていくことは不可能ではありません。選択は人それぞれです。
しかし私は、小さくまとまることなく、ひたすら技術を追い求め続ける道を歩みつづけるつもりです。
これからも挑戦しつづけます。人がやりたがらない難しい仕事、面倒な仕事は、全部、私にまかせてください。
取材日 2014.12