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耐震診断・耐震補強設計 2025.12.10

構造設計者が解説!直下型・長周期地震動による「倒壊・損傷サイン」から始める耐震診断


南海トラフ巨大地震や首都直下型地震など、日本各地で大規模地震の発生が予測されています。
今後想定される大規模地震に備える上でも、建物の構造安全性の把握は急務です。
皆様の大切な建物を守り、事業継続に必要な安全性を確保するため、大きな地震発生後にすぐに確認していただきたい、緊急の倒壊・損傷チェックポイントを提供します。

巨大地震で発生する「2つの危険な揺れ」と広域への影響

最大震度6強クラスの直下型地震は、旧耐震基準の建物は倒壊・大破の危険性が極めて高く、新耐震基準の建物でも、損傷が避けられないレベルです。建物の安全性を判断するためには、まず揺れの特性を理解する必要があります。

建物直下で起きる「短周期の激しい揺れ(直下型地震)」と、遠方から伝わる「長周期地震動」について解説します。

揺れのタイプ 特性(周期※・震源) 主な影響 危険な建物
直下型地震 短周期地震動(周期が2秒程度以下)、震源が浅い(キラーパルス) 柱や梁への瞬間的なせん断破壊力 低層〜中層の建物、特に旧耐震基準の建物
長周期地震動 周期が2秒~8秒程度、遠方まで伝わる 建物上層階の揺れの増幅と非構造体の破損 高層建物、タワーマンション、大スパンの構造物

※周期:波が1往復分だけ振動するのにかかる時間のこと

震度6強クラスの「直下型地震」が建物・地盤にもたらす衝撃とリスク

直下型地震とは、震源が陸地の直下、特に深さ20km未満の浅い場所で発生する地震を指します。 震源と観測地点の距離が近いため、初期微動(P波)から主要動(S波)までの間隔が短く、極めて短時間で最大級の激しい縦揺れ(キラーパルス)が発生するのが特徴です。 これにより、建物は瞬間的に大きな衝撃を受けます。

  • 倒壊リスク:直下型地震が建物を襲う時、震度6強クラスの極めて強い揺れは、直下型地震特有の短周期の激しい衝撃(キラーパルス)と相まって、建物の構造に甚大な負荷を与えます。新耐震基準の建物であっても損傷は避けられず、特に、構造体の強度不足や靱性(粘り強さ)不足が致命的な被害を引き起こす可能性があります。
  • 地盤の変状リスク:震度6強クラスの揺れは、地盤に大きな影響を与えます。液状化発生による不等沈下(傾斜)や、建物の基礎構造に想定外の大きな水平力がかかる事態は、建物の安全を脅かす最大の要因の一つです。建築構造の安全確認には、必ず敷地の地盤状況の点検を含める必要があります。

「長周期地震動」が広域・高層建物にもたらす固有リスク

直下型地震の局所的な破壊リスクに加え、広範囲に影響を及ぼす「長周期地震動」は、特に高層建築物にとって重大な脅威となります。

  • 高層建物のリスク増幅:長周期地震動は、周期(揺れが一往復する時間)が長く、その揺れが遠方のやわらかい地盤や巨大な堆積盆地を伝う際に大きく成長します。固有周期(建物がもつ揺れやすい周期)が長い高層ビルやタワーマンションなどの建物は、この長周期地震動と揺れのタイミングが合う共振現象を起こしやすい特性があります。この共振により、低層階では軽微な揺れでも、上層階では揺れが著しく増幅します。
  • 非構造体の二次被害と機能停止リスク:増幅された揺れは、建物の骨組みに変形を強いるほか、外装(カーテンウォール)、間仕切り壁、天井の損傷や脱落、または変形に伴いドアや窓が開かなくなるという二次被害を招き、人命を危険に晒すだけでなく、事業継続に深刻な影響を与えます。さらに、エレベーターのワイヤーが絡む、あるいは主要な設備配管が破損するなど、建物の機能停止につながる被害も発生しやすいのが特徴です。
  • 免震層の変位超過リスク:免震構造は揺れを低減しますが、長周期地震動のように周期の長い揺れに対しては、設計で想定した免震層の変位量を上回るオーバーシュート(設計変位の超過)が発生しているリスクがあります。変位が設計値を超えると、免震装置の機能低下や損傷、また免震層と上部構造をつなぐ配管やケーブルの破損を招き、建物の機能継続に甚大な支障をきたすため、専門家による緊急点検が必須です。

後発地震・大規模余震への備え:BCP(事業継続計画)の即時見直し

地震によって建物に初期損傷が発生している場合、後発地震や大規模余震によって被害が拡大し、二次災害につながるリスクが高まります。

建物の管理者・ご担当者様は、この情報をリスクファクターとして冷静に受け止め、即時的なBCP(事業継続計画)の再確認と、建物の安全性が確認できるまでの業務継続体制の再検討を行う必要があります。

  • 構造的な視点:建物にすでに初期損傷が発生している場合、後発地震によって被害が拡大し、二次災害につながるリスクが高まります。
  • 求められる対応:建物の専門家による点検結果が出るまでの間、オフィスや工場内で安全性が確認されていないエリアへの立ち入りを制限するなど、リスクを最小限に抑える対策の検討が重要です。

大地震後に必ず確認すべき建物の緊急点検チェックポイント

大きな揺れを経験した建物は、構造種別や工法を問わず、目に見えない部分で構造的な損傷を負っている可能性があります。以下のチェックリストに基づき、安全を確認してください。

【点検実施の注意】
建物の本格的な点検や、危険な箇所への立ち入りは、必ず大きな余震の危険が収まってから実施してください。生命の安全を最優先とし、二次災害のリスクがある場合は、外部から目視できる範囲の確認に留めてください。

【最優先】建物の骨組み(構造体)に現れる致命的な損傷サイン

構造種別 損傷のサイン 危険性の目安
鉄筋コンクリート造(RC造・WRC造) 柱や梁に発生した斜め方向のひび割れ(X型、せん断ひび割れ)。壁式構造(WRC)の場合は、耐震壁全体に同様の斜めひび割れやコンクリートの剥落がないかを確認。帯筋の破断や鉄筋の露出。基礎の大きな亀裂。 構造体のせん断破壊の兆候であり、倒壊に直結する危険性が高い。
鉄骨造(S造) 柱やブレース(筋かい)の座屈(局部的な曲がり)。溶接部の破断や接合ボルトの緩み・せん断。柱脚部のコンクリートの破壊。 構造フレームの耐力と変形能力が大幅に低下している可能性が高い。
木造(W造) 筋かいや耐力壁の破壊、柱と土台・梁の接合部(仕口・継手)の緩みや分離。 垂直荷重を支える力が失われつつあり、次の余震で倒壊リスクが増大。

【地盤連動リスク】基礎構造と地盤のチェックポイント

地震による建物の被害は、地盤の動きと密接に連動します。構造体の安全を確認するとともに、建物の足元と周辺の地盤に異常がないか、以下の点を必ず確認してください。

  • 敷地内や道路境界線において、段差、亀裂、砂や水の噴出(液状化の兆候)がないか。
  • 基礎コンクリートに幅1mm以上の貫通するような大きなひび割れがないか。
  • 建物全体が傾斜や沈下していないか(扉や窓の開閉が困難になっていないか)。

見落としがちな非構造部材の点検と二次被害リスク

建物の骨組み(構造体)に目立った損傷がなくても、天井や外壁などの非構造部材の損傷が二次被害や事業停止の原因となることがあります。これらの見落としやすい部位についても、以下のチェックをお願いします。

  • 外壁、カーテンウォール、屋上パラペットに浮きや剥離、損傷がないか。
  • 天井の吊りボルトやブレースに緩み、脱落の危険がないか。
  • エレベーターの駆動装置や昇降路の壁に損傷がないか、専門業者に確認。

特に警戒すべき物件とは?耐震性の「余力」を失っているサイン

目視で確認できる損傷が軽微であっても、構造的な「余力」が低下している建物は少なくありません。

構造基準によるリスク分類:旧耐震基準(1981年以前)の建物

1981年5月以前に着工された建物は、震度5強程度での倒壊防止を想定した旧耐震基準で設計されています。想定以上の揺れに対しては、現行基準の建物に比べ、大破・倒壊に至るリスクが極めて高いと判断されます。

構造バランスの不均衡と弱体化を招く要因

以下の要因は、建物の地震に対する抵抗力を静かに蝕み、地震の揺れによって一気に顕在化するリスクがあります。これらの項目に該当する場合、現在の耐震性能は設計時よりも大幅に低下している可能性が高いです。

  • 安易な増改築を行った建物:建物のバランスを崩すような壁の撤去や、重い増築を行った建物は、設計時の構造バランスが崩壊しており、特定の箇所に大きな負荷がかかりやすい。
  • 経年劣化が進行した建物
    • 鉄筋コンクリート造(RC/WRC造):コンクリートの中性化による鉄筋の錆が進行し、ひび割れや剥落がある建物。鉄筋の断面積が減少し、耐力が著しく低下しています。
    • 鉄骨造(S造):外部に露出した鉄骨や、屋根裏、床下などの湿度の高い環境下で、錆(腐食)が進行し、部材の断面が欠損している建物。また、過去の地震や振動で溶接部やボルト接合部に疲労損傷が蓄積している建物。
    • 木造(W造):雨漏りや結露による土台や柱の腐朽(腐り)が進行し、構造材が強度を失っている建物。

特殊な構造の注意点|大スパン・ピロティ・免震

一般的な建物とは異なる構造形式を採用している場合、その特殊な構造特性ゆえに、長周期地震動や巨大地震の揺れに対して固有のリスクが存在します。これらの構造を持つ建物の所有者・管理者は、特に慎重な点検が必要です。

  • 大スパンの工場・倉庫:広い空間を確保するため剛性が低いため、地震の際、建物全体の変形(層間変位)が大きくなりやすく、屋根や天井の部材、設備配管の脱落といった非構造体の被害リスクが高くなります。
  • ピロティ形式(1階駐車場など)の建物:1階部分の壁を少なくし、柱だけで上階を支えるため、1階が極端に剛性が低く(軟弱階)なります。地震力が1階に集中し、柱のせん断破壊や大きな変形によって階が潰れる(崩壊)に至るリスクが高いです。
  • 免震構造の建物:免震構造は揺れを低減しますが、長周期地震動のように周期の長い揺れに対しては、設計で想定した免震層の変位量を上回る変位が発生している可能性があります。変位が設計値を超えると、免震装置の機能低下や損傷、また免震層と上部構造をつなぐ配管やケーブルの破損を招き、建物機能の継続に支障をきたすため、専門家による緊急点検が必須です。

耐震性能の正確な把握と専門家への相談で次の大地震に備える

構造設計の専門家として最もお伝えしたいことは、「目に見える被害がなくても、建物の寿命や耐力が低下している可能性がある」という事実です。次の巨大地震から大切な財産と命を守るための、具体的な行動について解説します。

構造専門技術者による耐震診断|見えない損傷の評価

建物の安全性を客観的に把握し、次の揺れに備えるためには、耐震診断が不可欠です。構造設計一級建築士など専門技術者は、設計図書と現場調査に基づき、現在の耐震性能を数値で評価(Is値など)し、目に見えない構造体内部の損傷を判断します。

診断の結果、耐震性能が不足している場合は、建物や事業の用途に応じて、人命保護を目的とする補強から、地震後も機能を維持する機能維持補強まで、最適な改修設計をご提案します。

地域の耐震化支援制度(補助金など)の活用とBCPへの組み込み

多くの自治体では、旧耐震基準の建物を対象とした耐震診断や改修への補助金制度を設けています。これらの制度を積極的に活用し、補強設計から耐震補強工事までを実行することで、建物の安全性を高めることは、建物の所有者・管理者様にとって最も重要なBCP(事業継続計画)の一環となります。耐震化対策の実行により、建物構造の機能回復はもちろん、事業継続性を高め、将来予測される巨大地震へのリスクマネジメントの精度を高めます。

まとめ|次の安心へ!耐震診断こそが最大のリスクマネジメント

南海トラフ巨大地震や首都直下型地震など、今後高い確率で発生が予測される大規模地震は避けられません。

本記事でご紹介したチェック項目で一つでも不安な点が見つかった方、特に旧耐震基準の建物や深刻な経年劣化が見られる建物については、次の地震が来る前に、早めの耐震診断を実施してください。

構造設計事務所として、私たちは阪神・淡路大震災、東日本大震災、能登半島地震、そして青森県東方沖地震といった巨大地震から得た知見を未来の設計に活かすとともに、皆様の建物の安全確保に専門的な立場から尽力してまいります。

▼さくら構造 耐震診断の3つの特徴▼

  • 中立な立場で最適な補強工法を提案
    構造設計を専業とし、工事を行わないため、利害関係のない中立な立場から、建物に最適な耐震補強工法を選定し提案します。
  • 豊富な実績と高い技術力
    日本全国での診断実績と、業界トップクラスの専門技術者数により、複雑な建物でも安心して診断を任せられる技術力を有しています。
  • 中間マージンをカットし費用を削減
    構造設計事務所に直接発注することで、間に業者を挟まず中間マージンを省略できるため、診断費用を抑えることが可能です。

さくら構造(株)は、
構造技術者在籍数日本国内TOP3を誇り、
超高層、免制震技術を保有する全国対応可能な
数少ない構造設計事務所である。
構造実績はすでに8000案件を超え、
近年「耐震性」と「経済性」を両立させた
構造躯体最適化SVシステム工法を続々と開発し、
ゼロコスト高耐震建築の普及に取り組んでいる。

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地震応答解析・
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