地震とカロリー(cal)の関係
仕事柄、地震については関心が高いつもりである。
日本のどこかで地震が起きたニュースを聞くと、その地震の規模や大きさを知りたくなり、続いて震源地・・・被害想定etcなど。最近は、長周期地震動が都市部の超高層建築や免震建築物に影響があることが数年前の日本建築学会大会で議論され、TV(NHKスペシャル)でも放送されたのでご覧になられた方も多いと思われる。
では、その地震とやらが持つエネルギーがどの位の量や大きさなのか?
地震学の本などを紐解いてみるが、専門的過ぎて掴みきれない節がある。
そんな中で、我々の生活に関る数字を用いて説明したものがあるので、ここに紹介したいと思う。
地震とカロリー(cal)の関係
出展は『応答性能に基づく「対震設計」入門』で著者は石丸辰治先生。石丸先生は「対震」という概念を提案しエネルギーという観点から安全な建築構造の設計法をご提案されている方である。
自ら設計法を作り出してしまう卓越した能力の持ち主で有ると筆者は思う。
エネルギーの定義は、
「物体に加える力:単位N(ニュートン)×その移動距離:単位m(メートル)」である。
エネルギーの単位はJ(ジュール)で表されるが馴染みにくいので、私達にもピンと来やすいcal(カロリー)で表すと1kcal=4.2J=4.2kN・m となることが解明されている。
日本人が1日に消費する生態エネルギーは2,500kcal程度と言われてる。
この2500kcalは人によってはマチマチですよね~(筆者自身も少し反省・・)。
便宜上、1kcal≒4kN・mと扱うと、人は1日に10,000kN・mを消費していることになる。
では、地震が起きて建物が揺すられたときにどのくらいのカロリーが発生するのか換算してみる。
構造物の重量は1m×1mあたり10kN~20kN(1t~2t)で、その20~40%位が横に揺する力であるとして、我々構造技術者は仕事で扱っている。
建物高さ30m(おおよそ10階程度)の構造物を考え、大きな地震(兵庫県南部地震クラス)を受け、10階の屋根部分で水平方向に30㎝になったと想定する。通常の建物であれば、大きな被害を被るか被らないかの境界近傍である。
この建物を1つの塊で捉えその作用位置を塊の中心となる地上20mとする。
(専門的には等価1質点に置換して、刺激関数で1の位置が地上20mの位置と仮定)
この位置での水平方向変形は、30×2/3=20㎝(0.2m)になる。
この0.2mを用いれば、人1日の消費カロリーは10,000kN・m=50,000kN×0.2mに分解できる。
そして想定した10階建ての建物に作用する大地震時の絶対加速度の最大値として重力加速度gの半分0.5gと考えれば、人一日の消費カロリー10,000kN・m=50,000kN×0.2mの50,000kNという力は50,000kN=100,000kN×0.5 と表される。
100,000kNが10階建ての総重量とすると1階当たりは100,000/10階=10,000kN
この建物の平面規模は 10,000/(10~20kN/㎡)=500~1000㎡
重たい建物なら500㎡=10m×50m
軽めの建物なら1000㎡=20m×50m それなりに大きな平面を有している事が判る。
10階建てに作用する地震力が、人一人の消費カロリーと量的にはほぼ等しいのにあれだけの被害がでるのは腑に落ちないと思う方もいると思う。
そこにからくりというか理由があって
人間は2500kcalを24時間=86,400秒で消費している。
それに対して10階建ての建物は地震で揺れる周期(1往復する時間)が(0.08~0.1)×階数=0.8~1.0秒 (構造計算の固有周期算出は短めに出てるだけ)振動エネルギー2500kcalが最大に達するのはその1/4秒なので0.2~0.25秒!
このわずかな時間で人1日の消費カロリーに達してしまうのである。
言い換えれば、
周期が4秒なら4×1/4=1秒で 86,400人のパワーを集める必要があり周期が1秒なら 86,400/(1/4)=345,600人のパワーを集める必要がある。
おおよそ35万人の人口を調べてみると(※)
単純に人口のみで、北海道旭川市、東京都品川区、愛知県岡崎市、大阪府吹田市クラス
成人人口のみで考えたときに上記の2倍(35万が成人)の都市と仮定すると
東京都世田谷区、静岡県静岡市、大阪堺市、熊本県熊本市クラスになる。
多くの人を0.25秒という一瞬でパワーを結集することが如何に難しいか・・想像してみて欲しい。
石丸先生は、著書の中で対震という概念を用いて、その解決方法をご提案なされている。
興味ある方は、その箇所だけでも読まれることをお勧めする。
構造設計に関る方は、地震のパワーというものがどの位の量であるか、身近にある物理量に換算して把握しておくのは、構造を知らない世間一般の方に説明するときに役立つものではないだろうか。
※人口については、インターネットのWikipedia『日本の市の人口順位より』より。
名古屋設計室長 古宮 亮
さくら構造(株)は、
構造技術者在籍数日本国内TOP3を誇り、
超高層、免制震技術を保有する全国対応可能な
数少ない構造設計事務所である。
構造実績はすでに5000案件を超え、
近年「耐震性」と「経済性」を両立させた
構造躯体最適化SVシステム工法を続々と開発し、
ゼロコスト高耐震建築の普及に取り組んでいる。