前回は、「大空間」や「ローコストが重視される物流倉庫や工場・店舗・体育館などの低層大空間建築物では、構造種別として「鉄骨造(S造)」が秀でていることをご説明しました。
今回は、鉄骨造(S造)の中でも、工事や倉庫を「品質・短納期・低価格」で計画可能と謳っているシステム建築と、一般的な鉄骨造である在来工法を工事費・建築費(建設費)に着目して比較を行います。
システム建築とは、建物を構成する屋根や外壁などを「標準化」することで、建物のみでなく、部材の生産から施工に至る工程までを含めた建築生産プロセス全体を商品化した建築です。
「標準化」のメリットは、大きく下記が挙げられます。
人件費、資源の高騰による建築コスト(建設費)の上昇といった近年の建築業界の動きもあり、物流倉庫や工場・店舗・体育館・アリーナなどの低層大空間建築物の計画の際には、必ずといってよい程、候補にあがる選択肢の1つです。
システム建築に様々なメリットがあることを上記で説明しましたが、品質面に着目して「在来工法」と「システム建築」を整理すると、下表のようになります。
在来工法 | システム建築 | |
---|---|---|
耐久性 | △ | △ |
耐震性 | 〇 | 〇 |
工期 | 〇 | ◎ |
設計(プランニング)の自由度 | ◎ | △ |
材料の自由度 | 〇 | △ |
どのような建物でも、どの程度で寿命がくるのか、という耐久性は、誰もが注目する品質項目です。この点においては、在来工法もシステム建築もともに鋼材から構成されている「鉄骨造(=金属造)」であることは共通です。そのため、在来工法とシステム建築で耐久性に大きな差は生じないと考えられます(木造<鉄骨(在来・システム)<RC)
また、耐震性も耐久性と同様です。建物の規模・スパンの大小により遵守すべき基準の内容に差は生じますが、工法が違っていても、部材の大きさや配置が違ったとしても、最低限確保される耐震性は同じです。
在来工法では、建物毎に「設計→審査→製作図→鉄骨製作→施工」という手順が踏まれます。システム建築では、これらの一連の流れが商品化されているため、現場作業の省力化や工期の短縮が可能です。
構造設計は守るべき基準が数多くありますが、それらを守りつつ答えを出す方法はたくさんあります。
昨今のシステム建築は「低層大空間建築物」への対応性が良く、「自由設計」を可能とすべく様々な商品が開発されています。
また、それら商品にあわせ、設計方法(選択肢の選び方)や各部の納まりが決められています。そのため、設計者や各現場でのばらつきが小さく、より安定した品質を、安定した工程で実現することができます。
一方、在来工法では、標準化されていないからこそできる選択肢(構造的に厳しくなる部分のみ接合方法や部材の大きさを変えるという選択や、状況に応じて梁の架け方を変えて、効率の良い架構を採用するという選択など)があります。構造設計者が建物状況や用途に応じたクライテリアを設定し、トライ&エラーを繰り返してたどり着く結果はより自由度が高く、理想的な性能の建物を実現することが可能です。
在来工法で用いられる鋼材は一般流通のため、材料の入手等が特定業者に限定されることはありません。鉄骨造作図が作られ、ファブリケーターで鉄骨の加工がおこなわれ、施工業者によって現場で組み立てられます。つまり、各段階において、様々な立場の人の目が入ります。システム建築で、効率の良い形状の特殊部材や施工性や納まりに配慮した接合部が採用されるため、材料はメーカーが定めた生産ラインに限定されます。
特定の生産ラインとなるため、各段階でシステムによるチェックが行われるとともに、メーカーで一定数量を確保できるため、コスト(費用)を抑えることが可能となっています。
近年の現場の熟練工の不足といった業界状況を踏まえ、構造上弱点となり易い柱脚や接合部については、構造的な性能だけでなく、鉄骨製作や施工性向上を目的とした既製品が開発されています。これら既製品は在来工法でも採用することが可能です。
建築物の要求性能が様々であっても、すべての建築物には工事予算(コスト)があります。ここでは、低層大空間建築物の1つである「工場」を例に、工事費(建設費)の比較を行います。
規模:鉄骨平屋・3,967㎡
用途:工場(倉庫)
構造:X方向ブレース構造、Y方向ラーメン構造
在来工法 | システム建築 | |
---|---|---|
工事費 | 6,440万円~8,050万円 | 7,845万円 |
坪単価 | 5.35万円~6.70万円 | 6.53万円 |
※見積りの比較は、日常的に行われていますが、確認の際は見積りの範囲を注意して確認する必要があります。
システム建築は部材や仕様、設計方法が『標準化(規格化)』されていることから「高品質・低価格」と謳われていますが、実際に鉄骨工事費を比較してみると在来工法と大きな差がない結果となりました。
在来工法の場合、システム建築とは異なり、設計者の考え方次第で、その結果が大きく変わります。そのため、在来工法の工事費は幅のある金額としています。
システム建築・在来工法とも、得手・不得手がありますが、最終的な工事費は大体同じくらいとなることがわかりました。計画する建物がどの項目(工期・自由度など)を優先するかに合わせ、「システム建築」と「在来工法」を使い分けるとともに、どの構造設計者に依頼するかを慎重に判断することが重要です。
※さくら構造の「セレクトビーム」の場合だと4280万~5350万円くらいになります。
詳細はこちら「セレクトビーム工法」
次回は鉄骨数量(躯体数量)に着目して比較を行います。
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さくら構造(株)は、
構造技術者在籍数日本国内TOP3を誇り、
超高層、免制震技術を保有する全国対応可能な
数少ない構造設計事務所である。
構造実績はすでに5000案件を超え、
近年「耐震性」と「経済性」を両立させた
構造躯体最適化SVシステム工法を続々と開発し、
ゼロコスト高耐震建築の普及に取り組んでいる。