(1)から(4)に渡り、機能性・経済性を最優先すべき「物流倉庫や工場、店舗、体育館」といった鉄骨造(低層大空間建築物)について、システム建築と在来工法の比較を行ってきました。様々な違いがありましたが、その中にはビジネスモデルの違いによるものもありました。一般の建築も発注方式によって生じるメリット、デメリットがあります。今回は低層大空間建築物を建築する際の注意点を振り返るとともに、一般建築の発注方式についてそれぞれの特徴を説明します。
(2)から(4)にわたって着目点を変えてシステム建築と在来工法を比較してきましたが、大きくまとめると「鉄骨量」と「工事単価」の2項目が重要なポイントとなります。
システム建築も鉄骨造(S造)の一種なので、特殊材の使用等を除いて、システム建築でできて在来工法でできないことはなく、同程度の鉄骨数量を目指すことが可能です。
工事単価に影響を与える要因は「競争入札の有無」です。システム建築では基本的に特命工事となるため、工事単価が高くなり易く、在来工法では競争入札によりコストを抑えられる(=費用を安く抑えられる)傾向があります。
上記を踏まえて考えると、高品質とローコストを両立させるためには「鉄骨量を抑えられる技術を持つ設計者」と「競争見積もり」が必要になります。これら2つを選択するためには発注者自ら設計者、施工業者の選択を行う「手間」がかかるということがわかります。
在来工法で手間をかけて高品質ローコストを実現するか、システム建築であまり手間をかけずに安定した品質を実現するかは、その時々の状況や発注者の建物に求める性能に応じ、比較検討していくことが大切です。
一般に建築の発注形態は2種類あり、それぞれ長所と短所があります。これは鉄骨造でいうシステム建築と在来工法のビジネスモデルの違いによってそれぞれ異なる特徴を持つことと同様です。
建築の発注形式は大きく分けて2つ「設計施工一括方式」と「設計施工分離方式」があり、どちらを選択するかは発注者が決定します。
この方法は、設計と施工を一括で建設業者(工事業者)に発注する方法です。そのため、発注者は建設業者とのやり取りが基本となります。
設計と製作、施工を一元化することにより、設計時から施工を見据えた品質管理ができるとともに、施工者の得意とする技術の活用が行い易く、施工業者固有の技術を設計段階から盛りこむことができ、建築は品質高くなります。
計画の早期の段階でコスト管理を行うことができ、その上限を設定しやすい反面、コスト優先で設計を進めてしまった場合の品質低下や、設計段階の打ち合わせが不十分な場合、責任区分が曖昧な場合には着工後の設計変更による追加コスト発生の可能性があります。ただし、建築資材コストの変動による工事費高騰、職人不足に伴う建設会社の遅延を回避することができます。
この方式では、設計と施工を分離して発注するため、発注者側で設計事務所選定し、設計事務所が実施設計を行い、出来上がった図面を基に建設業者(工事業者)から見積を複数依頼して、建設業者(工事業者)を決定、施工をします。そのため、発注者は設計事務所と建設会社の両方とやりとりをします。
設計段階で建設業者(工事業者)が設計に関与しないため、建設業者に蓄積されたノウハウや技術を設計段階で生かすことができませんが、実施設計・工事監理までを第3者である設計事務所が行うことにより、ディテール等の設計意図の詳細が設計に反映され、手抜き工事のリスクも軽減し、建築品質が全体として高くなります。
コスト管理では設計段階で精度よくコントロールすることが難しいです。これは設計施工分離方式では、建設コストの決定が実施設計後の建設業者(工事業者)に見積もりを依頼した時となるためです。ゆえに、コスト管理が不得意な設計事務所では、品質を上げすぎてしまったがために、実施設計時に予算を大きく上回ってしまう危険性などのコスト面での不安が残ります。
また、コスト面での不安要素以外にも、建設業者(工事業者)に蓄積されている技術やノウハウを設計段階で活用することできないケースや設計で選択した各種工法の適切性、工期の予測などが、十分な水準に至らない可能性もあります。
上記でそれぞれの発注方式の説明を記載しましたが、それぞれのメリット、デメリットを整理すると下記のようになります。
設計施工一括方式 | 設計施工分離方式 | |
---|---|---|
品質 | ○設計時から施工を見据えた品質管理が可能。 △設計者や発注者目線のような第3者の客観的なチェックが行いにくく、 施工者側に偏った設計・工事になりやすくなる。 |
○デザインなど、設計意図の詳細までを 設計に反映することができる。 ○施工業者が関与しないため、より客観的な設計・工事管理ができる。 |
コスト | ○設計段階のような早期からコスト管理を行うことができる。 【注意】打ち合わせが不十分だと工事着工後の設計変更による 追加コストが発生しやすい。 |
△建設コストの決定は実施設計後の見積もり後になる。 【注意】コスト管理が設計事務所の技量に左右される。 |
工期 | ○設計段階から施工の準備が可能となるため、工期の短縮が見込める。 | △設計段階と施工段階が明確に分離されるため、 工期の短縮及び設計段階での工期の予測が難しい。 |
責任の所在 | ○設計施工が一元化されているので、基本的には明確。 【注意】受発注間で明確な責任分担がない場合や設計条件などが 曖昧な場合は受注者に過度な負担が生じることがある。 |
△設計段階のミスか、施工段階のミスか責任の 所在が不明瞭となることがある。 |
「設計施工一括方式」と「設計施工分離方式」はどちらも一長一短があります。大まかには設計施工一括方式はスピード面でメリットが大きく、設計施工分離方式は品質面でのメリットが大きい傾向があります。
設計施工分離方式の場合は、発注者が実績のある設計事務所に設計を依頼し、実施設計図面を基に、品質が確かでかつ競争力のある価格を提示できる施工業者へ相見積をして決定することができれば、品質と共にコスト面でもメリットが高いものとすることができます。また、設計施工一括方式の場合は、発注者が設計初期段階で設計条件や受発注者間の責任区分を明確にすることで、品質を確保しつつ、早期により正確なコストや工期の予想を行うことが可能となり、品質とコスト両面においてメリットが高いものとすることができます。
どちらの発注方式を採用するにしても最も大切なことは、目的に合った発注方式が採用できるよう、計画している建物がどのようなものか(コスト優先か、工期か、デザインや構造性能重視なのか)を明確にするとともに、それぞれの発注方法の性質を踏まえて検討・選択をすることです。
参考資料
https://xtech.nikkei.com/kn/article/knp/column/20141226/687870/
https://www.plusweb.co.jp/blog/hospital-74.html
http://www.e-zumen.jp/2018/10/22/post-625/
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