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構造躯体最適化 2021.04.02

システム建築と在来工法の比較③ ―工事業者選定編―


前回に引き続き、機能性・経済性を最優先すべき「物流倉庫や工場、店舗、体育館」といった鉄骨造(S造 低層大空間建築物)について、システム建築と在来工法の比較を行います。今回は前回まで(設計面)とは異なり、工事・施工面に着目していきます。

工事、施工面での違いとは?

(2)の記事でシステム建築と在来工法の違いを項目に分けて比較を行っていきましたが、その中の一つに「特殊な部材・材料を使用するかどうか」という項目がありました。そのことを踏まえ、工事業者の決定方法、時期について、下表に整理しました。

システム建築 在来工法
工事業者の決定方法 メーカー指定の工事業者に限定 競争入札により決定
工事業者の決定時期 設計時 設計終了後

工事業者の決定方法について

システム建築と在来工法では工事業者の決定方法が異なります。ここでは、それぞれの決定方法のメリットとデメリットを整理しました。

システム建築 在来工法
メリット ・何件も施工しているため、システム建築の詳細を知っている。
・システム建築メーカーによって施工規準が定められているため
業者間での精度の差が少なく、品質が安定する。
・競争入札のため、競争原理が働き、コストメリットが出やすい。
・工事業者と異なる第三者の客観的な目線でのチェックが入る。
・一般的な施工規準による施工が可能となるため、幅広い工事業者選びが可能。
デメリット ・設計施工であるため、客観的な目線でのチェックが行いづらい。
・システム建築の施工経験がない工事業者を選ぶことができない(メーカー指定の工事業者に限定)。
・鉄骨工事経験や基準の設定方法によって生産及び施工品質に差が生まれる。
・工事業者によって「当たり外れ」があるため、
コストと工事品質の両立が可能な業者選定を事業主自ら行う必要があり、 手間がかかる。

工事業者決定時期について

システム建築は設計段階で工事業者(建設業者)が決まり、設計後に工事費の競争見積もりを行うことができません。そのため、設計後に工事費の価格交渉を行う場面では事業主側(発注者)が不利になる傾向があります。これはシステム建築の工事をできる業者が限定されていることによって起こる現象です。 システム建築で、工事費(建設費)の交渉を行うことを目的とした工事業者の交換を行うためには、設計を全てやり直す必要があります。しかし、建築には工期があります。一度設計が進んでしまうと「再度設計をやり直す」ということは現実的には困難なケースが多く注意が必要です。
一方、在来工法は特殊部材や工法を使わず、一般流通材を使用するため、設計終了後に競争入札を行い、事業主自ら、工事業者選択をすることができます。

在来工法とシステム建築の鉄骨工事単価の比較

(2)及び(3)の記事で扱った物件で鉄骨工事単価(鉄骨数量と金額の関係)について考察します。

建物概要

規模:鉄骨平屋・3,967㎡
用途:工場(倉庫)
構造:X方向ブレース構造、Y方向ラーメン構造

鉄骨数量と金額の関係

システム建築 在来工法
鉄骨工事単価 42万円/t 20~25万円/t

結果

鉄骨工事費は、大きくわけて「鉄骨材料費」+「鉄骨施工費」で構成されています。基本的には「鉄骨数量が減る」=「工数が減る」=「鉄骨工事費が減る」というように連動して変化し、鉄骨工事単価自体はシステム建築も在来工法も変動がない状態となることが予想されますが、実際には異なります。 この違いは工事業者の決定方法、決定時期などが関連するビジネスモデルの違いによって生じています。

ビジネスモデルの違いの考察

【在来工法の場合】

在来工法は、設計と部材製作、施工といった建物完成までの各ステップをそれぞれ異なる業者が担当し、建物完成までのステップ毎に成果物を事業主に提供します。 そのため、設計終了後に設計図書(構造図・計算書)を受けとり、次の段階で建設会社を決定し施工を進めます。この建設会社の決定に競争入札を行うことが可能なため、最もコストが安い工事業者(建設会社)を事業主自ら選択することができます。その結果、鉄骨数量の削減を工事費(建設費)の削減に直結させ、事業主自身の負担費用を減らすことができます。

【システム建築の場合】

システム建築は、建物を構成する屋根や外壁などを「標準化」することで、部材の生産から施工に至る工程までを含めた建築生産プロセス全体を一つの成果物として事業主に提供します。
建築生産プロセス全体を商品として扱うため、工事はメーカーまたはメーカー指定の建設会社による特命工事として、設計段階で決まってしまいます。つまり、在来工法のように設計終了後に工事業者選定のための競争入札を行い、安く施工できる工事業者を選択するということはできません。
そのため、システム建築は鉄骨工事金額の内、鉄骨材料費(鉄骨数量)は「標準化」というメリット生かして大きく削減することができますが、鉄骨施工費は鉄骨材料費のようには削減することができず、最終的な鉄骨工事金額は在来工法と大体同じくらいの金額帯となります。

在来工法とシステム建築では、「設計から施工にいたるプロセスのうち、どの業者が、どの範囲を担当するかということ」や「設計終了後に競争入札を行うことができるかどうか」といった部分でビジネスモデルが大きく異なり、「鉄骨数量の削減によるメリット」が誰のもとに行くかに影響を与えています。

まとめ

システム建築と在来工法は、設計面だけでなく、工事や施工面でも違いがあります。システム建築は、事業主にコスト面ではメリットを大きく還元されていない部分がありますが、一品生産という特徴を持つ建築でありながらも、「商品」としての実績施工棟数など、目に見えて分かり易い安心感もあります。 また、「工事可能な業者が限られている」=「その工法の施工においては一定品質の確保」が約束されている、ということにもなりますので、安定した品質の建物をつくることができます。さらに、標準化した設計法、部材を使用するため、事前に精度のよい工期や予算を把握しやすいことがメリットとしてあります。

一方、在来工法は、品質の安定性という面では、システム建築に劣りますが、競争入札を行うことができるため、事業主のコストメリットをより大きくすることができます。ただし、品質の安定性、施工品質については工事業者の経験や加工技術の影響、及び、設計(施工困難な複雑な納まりを回避するような施工性に配慮した設計がされているか、等)の腕に依存する部分(当たり外れ)がありますので、施工業者、設計者ともに慎重に選択する必要があります。

機能性・経済性を最優先すべき「物流倉庫や工場、店舗、体育館」といった低層大空間建築物を建築するにあたり、施主や事業主が何を重視するのか、建築費や建設費といったコストなのか、工期なのか、プランなのか、また、どのような品質や精度を求めているのかを明確にし、システム建築と在来工法のメリットデメリットを照らし合わせて決定することが大切です。

※さくら構造の「セレクトビーム」の場合も在来工法と同様の方法で工事業者の選定を行うことができます。
詳細はこちら「セレクトビーム工法」

さくら構造(株)は、
構造技術者在籍数日本国内TOP3を誇り、
超高層、免制震技術を保有する全国対応可能な
数少ない構造設計事務所である。
構造実績はすでに5000案件を超え、
近年「耐震性」と「経済性」を両立させた
構造躯体最適化SVシステム工法を続々と開発し、
ゼロコスト高耐震建築の普及に取り組んでいる。