4号特例の縮小・廃止と新3号特例については、こちらの記事をご覧ください。
家を「建てる」「買う」「借りる」を検討されている一般のエンドユーザーの皆様にとって、建物の耐震性は最も気になる要素の一つでしょう。 しかし、不動産情報に記載される構造情報は極めて少なく、完成した見た目から建物の真の強さを見抜くことは困難です。
既に存在する類似記事の多くは、ハウスメーカーや工務店の「自社利益に誘導するためのポジショントーク」に終始しているのが実情です。 本記事は、建築構造の安全性と品質管理を専門とする、構造設計一級建築士資格を有する構造設計者が、利益とは切り離した技術的な観点から、中立的な立場で14種もの構造・工法を分析し、評価した唯一の記事です。
これまでの漠然とした耐震性のイメージは捨て、この記事を賢い住まい選びの参考にしてください。
このランキングを正しく読み解き、不動産情報に隠された建物の真の強さを見抜くために、まず理解しておくべき最も重要な原則が、「間取りの自由度と耐震性はトレードオフの関係にある」という構造設計の基本です。
家を「建てる」「買う」「借りる」どの選択肢においても、このトレードオフの関係が建物の安全性を判断する上で決定的な影響を与えます。
【物件判断のアドバイス】
不動産情報で間取りの自由度が低い物件は、高い耐震性を担保するための合理的な設計がされている可能性が高いと判断できます。
【物件判断のアドバイス】
間取りの自由度が高い物件は、構造設計者の関与や耐震等級のクライテリアを特に厳しくチェックする必要があります。
2025年4月の法改正以前、一般的な木造戸建て住宅は「4号特例」により構造計算のチェックが大幅に省略されてきました。
かつては、木造建築といえば主に規模の小さな戸建て住宅が中心でした。 そのため、鉄筋コンクリート造や鉄骨造の大型建築物と比較して、一件あたりの構造設計料の単価が低く、多くの設計件数をこなしても十分な利益を上げにくい領域でした。
こうした背景から、構造設計の専門家にとって木造は「儲からない」という認識が広がり、実力のある設計者が関わる機会が少なくなり、構造的な安全性が著しく低い建物が作られるという悪循環になっていました。 これが多くの戸建て住宅の耐震性が低い一因です。
この状況は、近年の法改正(2025年4月施行予定)により、4号特例が廃止され、木造2階建ての多くが「新2号建築物」として構造審査が必須になることで改善に向かっています。 しかし、延べ面積200㎡以下の木造平屋建ては「新3号建築物」に分類され、引き続き構造関連規定の審査が省略されることになっています。
つまり、構造設計者がチェックに関与しないリスクが一部の建物で依然として残り続けています。 構造設計者が関与しない設計では、構造の専門家ではない意匠設計者の知識や施工者の技術といった属人的な要素に、耐震性が大きく依存することになるのです。
木造戸建てのリスクを解説しましたが、木造の中にも「信頼できる工法」は存在します。 しかし、完成した建物からその違いを見分けるのは非常に困難です。
建物の構造を見分ける際、鉄筋コンクリート造の場合、柱と梁で支える「ラーメン構造」か、壁の面で支える壁式構造かは、多くの場合、室内の柱や梁の出っ張りの有無から判別できます。
しかし、木造建築の主要な工法である在来工法と2×4(ツーバイフォー)工法は、内装を仕上げてしまうと外観や間取りの見た目から区別できる要素がほとんどありません。
このため、構造設計の専門知識がなければ、一見して間取りの自由度が高い物件が、構造計算によって裏付けされた確かな安全性を持つのか、あるいは設計者の力量に依存した不安定な構造なのかを見抜くことが極めて困難になります。
木造在来工法における耐震性のリスクを指摘する最大の理由は、間取り=構造計画が、耐震性に最も大きく影響を及ぼす要素であると考えるためです。
「構造計画」とは、建物の安全性を確保しつつ、使用目的に合った構造形式、材料、柱や梁の配置などを計画することです。
間取りの自由度が高い木造在来工法が、その自由度ゆえに構造設計者の力量に耐震性を大きく依存させてしまう一方で、2×4工法は、その厳格な構造計画のルールによって高い耐震性を担保する仕組みが秀逸です。
本来、耐震性の高い建物とは、間取り(構造計画)の段階で既に耐震性が確保されており、その上で適切な構造計算によって安全性が裏付けられるべきものなのです。
安全性の低い間取りに対して、後から耐震等級3という数字を満たすために、壁の量を増やす、部材を太くするといった「修正」を行う設計手法は、構造設計の専門家としては本末転倒であると考えています。
本ランキングでは、以下の5つの評価項目(各3点満点、合計15点満点)を設定し、14種の工法・構造を評価します。
ここからは、上記で解説した5つの専門的な評価項目に基づき、主要な建物の構造・工法を細分化してランク付けした結果を発表します。
このランキングには、建物の安全性を司る構造設計者だからこそ提示できる、真の耐震性を反映しました。
| 順位 | 構造・工法 | 過去の地震被災度 | 設計手法の信用度 | クライテリアの高さ | 構造設計者の関与度 | 施工品質のバラつきリスク | 合計点 |
|---|---|---|---|---|---|---|---|
| 1位 | 鉄筋コンクリート壁式構造 (WRC) | 3 | 3 | 3 | 3 | 3 | 15点 |
| 2位 | 鉄筋コンクリート免震構造 | 3 | 3 | 3 | 3 | 2 | 14点 |
| 3位 | 鉄筋コンクリートラーメン構造(ルート1:強度型) | 3 | 3 | 3 | 3 | 2 | 14点 |
| 4位 | 鉄骨造制震構造 | 2 | 3 | 3 | 3 | 3 | 14点 |
| 5位 | 2×4工法 耐震等級3(許容応力度計算あり) | 3 | 3 | 3 | 2 | 2 | 13点 |
| 6位 | 鉄筋コンクリートラーメン構造(ルート3:靭性型) | 2 | 3 | 2 | 3 | 2 | 12点 |
| 7位 | 鉄骨造耐震構造 | 2 | 2 | 2 | 3 | 2 | 11点 |
| 8位 | 2×4工法 耐震等級3(構造計算なし) | 3 | 2 | 3 | 1 | 2 | 11点 |
| 9位 | 2×4工法 耐震等級1(許容応力度計算あり) | 2 | 3 | 2 | 2 | 2 | 11点 |
| 10位 | 在来木造戸建て 耐震等級3(許容応力度計算あり) | 2 | 2 | 3 | 2 | 1 | 10点 |
| 11位 | 2×4工法 耐震等級1(構造計算なし) | 2 | 2 | 1 | 1 | 2 | 8点 |
| 12位 | 在来木造戸建て 耐震等級3(構造計算なし) | 2 | 1 | 3 | 1 | 1 | 8点 |
| 13位 | 在来木造戸建て 耐震等級1(許容応力度計算あり) | 1 | 2 | 1 | 2 | 1 | 7点 |
| 14位 | 在来木造戸建て 耐震等級1(構造計算なし) | 1 | 1 | 1 | 1 | 1 | 5点 |
※構造計算の「ルート2」が評価対象外である点について
建物の規模や構造に応じて構造安全性の検証レベル(計算方法)は「ルート」で定められます。
ルート2(許容応力度等計算)は、検証レベルが複雑であるもののルート3(保有水平耐力計算)ほどの安全性を謳えないため、ランキングの複雑化を避けるため、意図的に評価対象から除外しています。
| ルート | 計算方法の名称 | 検証の目的 (地震力) |
計算の厳格さ | 適用される主な建物 |
|---|---|---|---|---|
| ルート1 | 許容応力度計算 | 中地震(震度5程度)で建物が損傷しないこと。 | 最も簡易 | 比較的小規模・単純な建物。 |
| ルート2 | 許容応力度等計算 | ルート1に加え、建物の剛性・偏心に偏りがないこと。 | 中程度 | 中規模の建物、中高層の建物(高さ31m以下)。 |
| ルート3 | 保有水平耐力計算 | 大地震(震度6強~7程度)で建物が倒壊・崩壊しないこと(人命保護)。 | 最も厳格 | 大規模・高層(高さ31m超)の建物。 |
ここからは、評価点の高い順に、それぞれの構造・工法について、なぜ構造設計者がその評価を下したのか、ランキングの技術的根拠や評価のポイントを詳細に解説します。
壁全体で地震の力に対抗する構造であり、剛性(変形しにくさ)と強度(壊れにくさ)の両面で非常に優れています。 設計法・施工実績ともに極めて信頼性が高く、特に阪神・淡路大震災(1995年)では、旧耐震基準の建物に大きな被害が出た中で、壁式構造の建物は無被害の実績がNo.1であったことが公的調査で判明しており、その揺るぎない耐震性を証明しています。 構造部材の耐力が非常に大きいため、多少の施工不良があったとしても耐震性が確保されやすいという側面も、評価点満点となった理由です。
免震構造とは、免震装置を設け、地震の揺れを大幅に低減する構造です。 揺れを根本から抑えるため、クライテリア(性能目標)は最も高く、設計基準も厳格です。 技術的な難易度から、高い信頼性を持つ構造設計者が必然的に関与します。 免震装置の設置や管理には高い精度が求められるため、通常の鉄筋コンクリート造と比較すると、免震装置部分の施工精度に注意が必要な点から、施工品質リスクは「2」としています。
鉄筋コンクリートラーメン構造の中で、ルート1設計(強度型)は、建物の剛性と強度を重視して設計する手法です。 1位の壁式構造と同じく、大きな耐力で地震力に抵抗するため、万が一、多少の施工不良があったとしても耐震性が確保されやすいという利点があります。 鉄筋の配置やコンクリートの打設に関わる手間が多くなるため、施工品質のバラつきリスクは壁式構造よりやや高めの「2」評価となっています。
制震ダンパーを搭載し、地震エネルギーを吸収することで、揺れを抑える構造です。 制震構造の設計は難易度が高く、高レベルの構造設計者が関与するため信頼度が高いです。 ダンパーの導入は、工事会社の技術レベルが高い証左でもあり、施工品質も安定するためリスクは最低限に抑えられます。
2×4工法は壁式構造と同様に面で構造を支える「モノコック構造」であり、厳格な構造計画基準がルールとして定められています。 この工法特有の立体効果が、木造でありながら鉄筋コンクリート造・鉄骨造に引けを取らない安定感を生み出しています。 耐震等級3という高い性能目標を許容応力度計算で確認することで、安全性はさらに高まります。
ルート3は巨大地震時を検討する最上位の計算ルートです。
ルート1の強度型が「壊れにくさ」を目標とするのに対し、ルート3の靭性型は変形によりエネルギーを吸収し「崩壊しにくさ」を目標とします。
目標強度が低く設定されるケースがある点で、構造設計者としての評価が分かれます。
また、ゼネコン施工の場合、設計事務所とは別の第三者として工事監理者が厳しくチェックする必要があります。
この第三者監理が形骸化すると工程優先に陥りやすく、コンクリート打設や鉄筋定着など、構造上重要な箇所の施工品質にバラつきが発生するリスクがあります。
鉄骨造は、部材が工場で高精度で加工されるため、施工現場での作業が少なく、溶接不良などの問題がなければ施工品質が安定しやすい利点があります。 鉄骨造は鉄筋コンクリート造と並んで大規模構造物にも適用される構造であり、高度な構造設計の経験を積んだ設計者が関与することが多く、設計段階で構造的な問題が排除されやすい傾向にあります。
2×4工法は、面で支えるモノコック構造特有の厳格な仕様基準が定められているため、構造計算(許容応力度計算など)を必須としなくても、耐震等級3の性能を満たす設計が可能です。 工法特有の安定感はありますが、構造計算を行わない場合、構造設計者による厳密なチェックと関与が低くなるため、設計の安定性に疑問が残ります。
構造計算を行うことで設計の安全性は担保されますが、耐震等級1というクライテリアは、現行の耐震基準をクリアする最低限のレベルに過ぎず、大地震に対して建物の倒壊・大破を許容しています。 厳格な構造計画基準と構造計算を実施していたとしても、このクライテリア設定が低評価の要因となります。
耐震等級3を目標とし、構造計算を行っているため、理論上の安全度は高くなります。 しかし、在来工法は間取りの自由度が高いがゆえに、構造計画が設計者の力量に依存する(属人性)という最大のリスクを抱えています。 さらに、商業施設や公共施設に比べて一般的な戸建住宅は施工監理が甘くなる傾向があるため、施工品質のバラつきリスクは最低点の「1」評価です。
2×4工法特有の安定感はあるものの、構造計算をしておらず、構造設計者の関与度も低いため「1」となっています。 また、クライテリアも耐震等級1と最低限の基準であるため、厳格な構造計画基準に依存するのみで、十分な安全性とは言い難いです。
耐震等級3という高いクライテリアを目標としていても、構造計算をしていなければ、柱や梁といった個々の部材の応力や、建物全体のねじれに対する安全性が厳密に確認されておらず、検証が不十分です。 在来工法は構造計画のルールが明確ではないため、構造計算がないと設計の信頼度が「1」まで低下します。 設計者と施工者の属人性が非常に高く、設計の不安定さに加えて施工のバラつきリスクも加わり、不安定な状態となります。
構造計算を行ったとしても、2×4工法と比べて構造計画の属人性は排除できません。 クライテリアは耐震等級1と最低レベルであり、一部の木造戸建ては独立した専門機関によるチェック(第三者審査)をしなくてもよいため、全体的に非常に不安定な設計といえます。
すべての評価項目が最低点となる、地震大国日本で選択するのは極めてリスクが高い工法です。 構造計画の明確な基準がなく、構造計算も行われず、構造設計者の関与もほぼ無く、クライテリアも最低レベル。 この工法は、耐震性においては最も避けるべき選択肢の一つであると構造設計者として断言します。
建築知識を持たない方にとっては、専門的な構造の解説は難しかったと思いますので、これだけは確認してほしいという最低限の要素を3つご紹介します。
家を「建てたい」「買いたい」「借りたい」とご検討中の皆様は、不動産情報を見る際に、ポジショントークに終始する類似記事に騙されず、本ランキングを参考にしていただきたいと思います。
この知識が、皆様の安全で安心な住まい選びの一助となることを願っております。
【参照・根拠資料】
・国土交通省 建築震災調査委員会 報告書(1995年阪神・淡路大震災 関連)
・日本建築学会 災害調査報告書(1995年阪神・淡路大震災、2016年熊本地震 関連)
・国土交通省 建築基準法および耐震基準に関する資料

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【さくら構造株式会社】
事業内容:構造設計・耐震診断・免震・制振・
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構造躯体最適化SVシステム・
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| ●札幌本社所在地 |
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〒110-0015 東京都台東区東上野2丁目1-13 東上野センタービル 9F TEL:03-5875-1616 FAX:03-6803-0510 |
|---|
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|---|
さくら構造(株)は、
構造技術者在籍数日本国内TOP3を誇り、
超高層、免制震技術を保有する全国対応可能な
数少ない構造設計事務所である。
構造実績はすでに8000案件を超え、
近年「耐震性」と「経済性」を両立させた
構造躯体最適化SVシステム工法を続々と開発し、
ゼロコスト高耐震建築の普及に取り組んでいる。