建物はすべて「構造」で支えられており、柱や梁などの構造がしっかりしていてはじめて、建物は機能や安全を維持できます。 構造は人間の体で言えば骨格に当たる重要な要素で、台風や地震など自然の脅威から骨組みを支え、建築を守る役割を担っています。 特に地震国・日本ではその重要度が高いことは言うまでもありません。
建物を支える構造形式には耐震構造・制震構造・免震構造があります。 ここでは耐震性とは何かをまず理解して頂いた上で、耐震構造とはどのような構造なのかを説明します。
建物の安全性は地震や台風等の自然現象を相手にしており、特に地震についてはいつどこでどのくらいの地震動(地震によって発生する揺れ)が起きるかの予測はできていません。 さらに建築基準法は最低限守るべき仕様であり、どの程度の地震に対して構造安全性を確保するかは、建築主が決める必要があります。
構造安全性には、検討すべき要素として長期的に常時作用する固定荷重と積載荷重、短期的に作用する地震荷重、風荷重、積雪荷重(多雪地域では長期荷重)などがありますが、ここでは耐震性に大きく影響する地震荷重の安全性について考えてみます。
まず、建築基準法で定められている耐震設計の基本理念は、2段階の地震を対象としており、それぞれ「レベル1地震動」と「レベル2地震動」としています。 この地震動とは、地震によって発生する揺れのことで、「レベル1地震動」「レベル2地震動」というのは、建物の耐震設計を行うときに耐えられる地震の大きさを大まかに2段階に分けたものになります。
「レベル1地震動」は中規模の地震(震度5強程度)で、その建物の耐用年数中に一度以上は受ける可能性が高い地震動を指しています。 つまり比較的頻繁に起きている地震です。また主要構造体は概ね弾性的な挙動で応答することを目標として、地震時の変形制限を設けています。 つまり構造物はおおむね弾力的な揺れに収まるため、ほぼ無傷で耐えられることを目標に設計します。 そのため仕上げ材などの一部は外観上の軽微な損傷を受ける可能性がありますが、建物の機能はほぼ維持されるという考え方です。 したがって、中地震に対してはほとんど構造的な補修の必要なく建物を継続して使用できます。
「レベル2地震動」は、当該建築物の敷地において、過去及び将来にわたって最強と考えられる地震動(震度6強から震度7程度)を指し、この地震動に対して建物は倒壊したり、あるいは外壁の脱落等の人命に損傷を与える可能性のある破損を生じないことを目標にしています。 つまり大地震に対しては、構造骨組は大きな損害を被るものの、落床・倒壊等を防ぎ人命は保護されることを想定しています。 しかし構造部材の損傷が大きくなり、地震後は建物に立入ることが危険となる可能性があり、また余震による倒壊の危険性も考えられます。 この場合、構造骨組の完全な復旧は困難を極め、建物の財産価値も失われます。
建物の耐震性能とは、地震が起きた時に柱や梁、壁などの構造躯体の損傷、倒壊、崩壊のしにくさのことを言います。 耐震構造には、十分に強度を確保した「強度型」と強度は小さいが十分に靭性(粘り強さ)を確保した「靭性型」という地震に抵抗する方式があります。
「強度型」は主に低層の建築物で可能な構造形式で、RC造の耐震壁や鉄骨ブレース構造など強度の大きい耐震要素を用いるものです。 特徴として構造物の塑性化による靭性の効果(エネルギー吸収と変形)をあまり期待しないため、強度型の建物は地震時の変形が少ないことが長所となりますが,一方で応答加速度が大きくなります。
専門的には建物自体が持つ固有の周期が、地震による揺れ方に違いをもたらしますが、一般に中低層建物は固有周期が短く、揺れ幅が小さいものの、カタカタと小刻みに激しく揺れる特徴があります。 特に上層階ほど激しく揺れに見舞われることになるため、室内の家具が倒れて食器などが散乱する危険があるので、家具を固定したり食器が飛び出さないように工夫したりするなどの対策が必要になります。
これに対して「靭性型」は、構造体が塑性化することによるエネルギー吸収を期待し、主にRC造、SRC造や鉄骨造のラーメン構造で可能な構造形式です。 靭性型の構造は、構造体の塑性化は避けられませんが、どの部位を塑性化させるかを考え、部材の塑性変形能力を発揮するように構造設計します。 靭性型は強度型に比較して応答加速度は若干減る傾向がありますが水平変形が大きくなります。
実際には耐震壁付ラーメン構造のような強度型と靭性型の中間の構造がありますが、靭性の少ない構造要素が一部でもある場合にはその要素の変形性能で限界となり他の構造体の靭性が十分に発揮できないこともあるため専門的な知識が必要になります。
耐震設計をしていれば、建物は絶対に壊れないとは言えません。 建築構造の安全は、本来は確定的に決められるものではなく、その度合いも一義的なものでなく、建築基準法などの法律は最低水準を社会的な合意として規定しています。 今後も地震は基準法が決めた範囲を超える大地震が起こることも十分考えられます。
例えば、巨大地震により絶対に壊れない建物を造ることは、地震力の大きさがわかっていれば、工学的には可能です。 しかし、大変なコスト(建設費)が掛かり、地震力に対抗するための耐震壁やブレースなどが多くなり、一般的に建物の使い勝手も悪くなります。 つまり建物が存在する間に遭遇するかしないかという巨大地震に対して、これに備えて絶対に壊れない建物にすることは、不経済・非効率になります。
建築主は、建築基準法の基準を満たしていれば生命の保護はもちろん、財産の保護もできると解釈しがちです。 これは設計者が、建物の性能に対して正確に説明してこなかったことも原因の1つかもしれません。
構造設計は安全性に関して社会への説明責任を担うことから法律への適合が求められています。 また、適法であることだけで安全で機能を維持した建物とは言えず、安全性を備え良質な建物は、設計者の技術力・工夫・配慮によって達成されるものです。 設計者は、様々な施工技術・技能の実態を理解した上で設計を進め、建物構造の品質を確保しつつ、建築地域の状況やプロジェクトの規模などに応じて適用可能な技術および構造材料を前提に、設計を行っていきます。
今後は大地震に対して、どの程度の耐震性能を求めるのかを建築主と対話しながら決めていくことが重要になってきます。 高い耐震性能を目標にすると、建設費や設計費が増加し、意匠や設備に対する制約も出てきます。 建築主が何を求めるのかを具体的に考え、建築主と設計者がお互いに合意したうえで、建物の耐震性能を決める必要があります。
さくら構造の高耐震化技術について、より詳しく知りたい方は、「ゼロコスト高耐震化技術」をご覧ください。
この記事は、構造設計一級建築士資格を有する、構造設計の専門家が監修しています。
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さくら構造(株)は、
構造技術者在籍数日本国内TOP3を誇り、
超高層、免制震技術を保有する全国対応可能な
数少ない構造設計事務所である。
構造実績はすでに5000案件を超え、
近年「耐震性」と「経済性」を両立させた
構造躯体最適化SVシステム工法を続々と開発し、
ゼロコスト高耐震建築の普及に取り組んでいる。