構造設計事務所 さくら構造 > 建築総コスト最適化 > 建築構造設計者から見た「建築費が高騰している原因と建築コスト削減のポイント」

建築構造設計者から見た「建築費が高騰している原因と建築コスト削減のポイント」

2011年3月に起こった東日本大震災以後、震災関連の復興事業やオリンピックの競技施設建設工事の増加、さらに大都市では、中心地における再開発プロジェクトによる建設需要の増加により、建築費もどんどん高騰してきました。

例えば、RC造の躯体工事に関連する主要資材の生コン(レディミストコンクリート)、異形棒鋼(鉄筋)、コンクリート用型枠合板などの建築資材は、国内外の需要に合わせて価格が上昇しており、こうした状況下では、いやが応でも建設工事費は高騰してしまいます。

また、少子高齢化による若年層の働き手の不足、それに伴う労務費の高騰により建築費が大きく引き上げられています。過去であれば、需要を追う形で建設業就業者数も大きく増加しましたが、現在は人手不足の状況であるのにかかわらず人手の数に大きな変動はありません。

このような背景がある中、建築構造設計者から見た「建築費が高騰している原因と建築コスト削減のポイント」を確認していきましょう。

1.建築費が高騰している原因

導入で述べたように、資材費と労務費が高騰したことによって建築費が大きく引き上げられています。ちなみに、資材価格が高騰した背景としては、国内の建設需要増加だけでなく、国外の建設ラッシュにより世界的な建設資材の需要が高まった為に、コンクリートはセメント、鉄筋は鉄スクラップ、鉄骨は原材料となる鉄鉱石や原料炭、これら原材料価格(輸入含)が高騰したことが挙げられます。

また、一般的に建設工事は請負工事契約に基づく為、建設会社は工期が長ければ長くなるほど、将来の資材価格の上昇も請負工事契約に含まれるリスクとして考慮し、金額として建築費に加算します。その際に、資材価格や労務費が工期内にここまでは上昇しないであろうといった水準を想定して見積書を作成します。よってこれらが工期内で実際に上昇する価格よりも大きなふり幅で建築費が高騰します。

さらに、建設会社は資材価格や労務費といった価格上昇の要因となった原因が沈静化してからもその様子を伺いながら、見積金額に価格上昇リスクとして見込む金額の割合を徐々に下げていきます。よって実際に建築費の水準が下落するまでに、工期に見合ったタイムラグが発生するため、それが建築費の高騰の原因になっている場合もあります。

2.建築構造設計者から見た建築コスト削減のポイント

①構造種別の選定

本体工事費の約3~4割を占める躯体工事費に影響するものとして、構造種別の選定があります。構造種別(RC造、鉄骨造など)の選定にあたって考慮しなければならない主な要因は、建物用途、建物高さ(規模)、スパン、荷重条件、居住性能、敷地条件などが挙げられます。またそのほかにも地盤状況の確認による基礎形式の選定も考えなければなりません。

例えば、躯体工事費の2割以上を占める基礎形式については、建物自体の自重の大きさによって変わり、軽いほうが基礎の大きさを小さくできるためコスト的には有利になります。例えば一般的なS造の建物重量は、RC造と比べて30%程度の軽量化が図れるため、直接基礎や摩擦杭などの採用も可能となり基礎形式の選定幅が広がります。

このように、選定にあたっては様々な要因が考えられますが、これらの要因を総合的に判断し、最適と思われる構造種別(コストバランスに優れた)を決めることが重要になります。

②バリューエンジニアリング(VE)

バリューエンジニアリング(VE)とは、機能を低下させずコストを低減できる手段又はコストを上げず機能を向上できる手段が他にあれば、その手段を積極的に採用していくことにより、コスト縮減と機能・品質の向上を図ることを目的とするものです。

例えば、ゼネコンは工事見積書を提出する時に,代替設計や代替仕様書などによるコストダウンの方策を添付する、VEの手法にもとづいてコスト目標・工期目標へ近づける提案をするなど、彼らの持つノウハウをフィードバックしているケースも多くあります。

③信頼できる構造設計者(事務所)の選定

意匠設計者からはよく「この柱はとれませんか」や「配管が納まらないので梁せいを小さくできませんか」などの要求事項が多くあります。意匠設計者のデザインに合わせて構造設計することも可能ですが、無理な構造計画になり、その結果として躯体コストがアップすることになりかねません。また無理な要求から後々ひび割れ等の不具合が生じたケースなどもあります。

このように設計段階での決定事項が現場での生産性に与える影響度は非常に大きく、ひいては建築コストや建設工期にまで大きな影響力があるため、構造計画・設計段階から構造設計者と共に多くの違った角度からプランを見直すことで、工事費の低減と機能・品質向上の改善提案を取り入れ、最適な構造計画・設計に限りなく近づけることが可能です。

よって、意匠設計者のデザインの意図を理解し、それに合わせて適切な構造計画・設計に柔軟に対応できる構造設計者の選択がコスト削減につながります。

3.おわりに

以上、建築構造設計者から見た建築コスト削減のポイントを3つ挙げましたが、その他にも屋根材などの仕上げ材の軽量化(重量の削減)、コンストラクションマネジメントによる分離発注など、コスト削減方法も様々なものがあります。

しかしながら、コスト削減の最大の効果を得るためには、構造計画・設計で生じた様々な課題を分析し、最も効果の高い課題を特定して改善対策を取ることです。これをしなければ、いくら後工程で工夫をしても最大の効果を得ることは難しくなります。最初の改善ポイントを見つけることは、その後の様々な改善にも効果を発揮する重要な施策です。

ただし、最初の改善すべき課題を解決するためには、実験・研究で得たノウハウの蓄積や、それ相当の構造設計者の経験が必要になるのは言うまでもないことです。