構造設計業務の流れ


建築を設計するためには幅広い専門領域の知識と技術が必要であるため、現在ではほとんどの建築において、建築設計者(意匠設計)とともに設備設計者や構造設計者が協力して設計を進め、それぞれの専門分野をカバーしています。

特に建築構造は建築の空間構成を規定します。例えば居室を広くするための壁・柱の位置や高さは構造によって決定されます。この求められる空間のあり方を十分に理解しそれを満たす構造を実現することが構造設計です。それでは具体的に「構造設計業務の流れ」についてみていきましょう。

1. 構造設計業務の流れ

建築主からどんな建物が求められているか(デザイン、建築予算、工期)。建築設計者(意匠設計)の意図する全体あるいは個々の建築空間の構成、形状、大きさ、そして高さはどのようなものか。環境条件として、どんな場所に建つか。その場所の地盤はしっかりしているか。そこではどのような地震、強風そして雪などが発生するのか。これらに対してどのような耐震性能や供用期間を設定するのか。

このように様々な条件を満たす構造の骨組や材料とはどのようなものか判断し、満足させるプロセスが構造設計業務の流れになります。


事前相談

1.お問い合わせ
電話、メール、FAX等にてお問い合わせ。
2.ヒアリング
ご要望、敷地の状況、予算、スケジュールなどを確認します。
3.敷地調査
敷地(地盤)を含め周辺状況を既存資料から確認します。
4.基本計画提案
ヒアリングした内容、敷地条件を考慮し、ラフな構造基本計画を提案(RC造、鉄骨造等の構造種別、柱位置や仮断面)します。ただしこれらの初期検討は、意匠設計者により行われる事もあるため、構造設計者はアドバイスします。
5.お見積り・工程提案
基本計画に基づきお見積りと工程を提案します。

構造設計

6.契約
契約の締結し、構造設計を開始します。また基礎形式の選定のための地盤調査内容を指示します(測定ポイント、深度、地盤調査方法等を地盤調査会社と連携しながら進めます)。
7.初期打合せ
・社内プロジェクト会議
設計担当と図面担当を交えて、⼯程、基本計画時に⽴てた設計の方向性を共有します。

・お客様とキックオフミーティング
意匠図と基本計画を確認し、事前相談の段階で共有したゴールに進むために、不⾜している情報を初期質疑としてキックオフミーティングで確認します。
8.設計方針決定
初期打合せ内容をもとに、具体的に設計方針(構造種別・架構形式・荷重条件などを想定して設計ルートを設定)を固めていきます。
9.仮定断面
共有化された基本計画(構造スパン、積載荷重、耐震グレード等)のもとで、仮断面を算出します。特に断面外形寸法の変更は意匠・設備分野への影響があるので仮定断面修正が必要な場合は迅速に関係者と調整します。
10.基礎工法の比較選定
地盤調査結果と建物の重量から基礎の形式(杭、フーチング基礎等)を決定します。
11.解析・断面算定
構造計算(2次部材の計算、構造解析・断面算定等)を進めて、随時その検討内容を基本計画に反映させます。場合によっては、構造的な検討結果により基本計画を作り直していくこともあります。
12.構造図作成
構造計算を元に、構造設計図書一式を作成していきます。
13.管理者チェック
構造計算書及び構造図に相違はないか、または安全性確認に必要な情報が網羅されているか等を管理者がチェックします。
14.レビュー
管理者だけでなく、最新の知⾒や専門性をもったスペシャリストがレビューを行います。より多角的な設計を⾏い、品質の向上に繋がります。
15.お客様チェック
打合せ通りの内容となっているか、構造躯体が干渉する箇所はないか、意匠設計変更の有無を確認します。
16.計算書まとめ
構造計算書には設計方針や計算根拠等を記し、わかりやすい計算書の作成を心がけます。計算書は数百頁となるため、印刷出力作業やファイリングを行います。
17.構造設計内容説明
構造設計の内容を説明します。建物の構造的特徴や課題クリアのために何をしたか、打合せ通りの設計になっている旨をお客様にお伝えします。
18.納品
以上の内容に問題なければ納品です。

確認申請

19.建築確認申請・構造計算適合性判定の質疑対応
管轄の役所、または民間の審査機関に確認申請を提出します。この時、構造計算適合性判定が必要となる案件では、判定員の構造質疑回答を行います。

施工

20.施工現場からの質疑対応・現場監理
工事開始後、必要に応じて定例打ち合わせに参加し、工事進捗状況、施工内容の確認をします。さらに構造躯体における配筋検査、中間検査、随時工事に立会います。建主様の立場で工事品質の監理し、設計調整を行います。

2.構造設計業務の流れで大切なこと

構造設計者との打ち合わせをスムーズに進めるためには、目標を明確に示すことです。その目標の中で重要なのが「コスト」と「性能」です。この「コスト」と「性能」は切っても切れない関係にあります。

建築構造でもっとも関心の高い「性能」は「耐震性」です。例えば、巨大地震により絶対に壊れない建物を造ることは、地震力の大きさがわかっていれば、工学的には可能です。しかし、大変なコスト(建設費)が掛かり、地震力に対抗するための耐震壁やブレースなどが多くなり、一般的に建物の使い勝手も悪くなります。つまり建物が存在する間に遭遇するかしないかという巨大地震に対して、これに備えて絶対に壊れない建物にすることは、不経済・非効率になります。よって、より安心できる「性能レベル」を選択できるように、対話を十分に重ね、要求する「性能」の目標を設定する必要があります。

また、コストに大きく影響する項目として、構造種別と基礎形式の選定があります。特に躯体コストの2割以上を占める基礎形式については、建物自体の自重の大きさ(構造種別)によって変わり、軽いほうが基礎の大きさを小さくできるためコスト的には有利になります。例えば一般的なS造の建物重量は、RC造と比べて30%程度の軽量化が図れるため、直接基礎や摩擦杭などの採用も可能となり基礎形式の選定幅が広がります。さらに建物用途、建物高さ(規模)、スパン、荷重条件、居住性能、施工性、敷地条件などもコスト、工期に影響するため総合的な観点で「性能」と「コスト」のトレードオフを考えなければなりません。

また、ここ数年の型枠工事や人件費、さらには資源の高騰による建築コストの上昇があります。そこで現場作業を省力化するため、プレキャストコンクリート(現場で組み立て・設置を行うことを前提に工場などであらかじめ製造されたコンクリート製品のこと)を採用することで現場作業の軽減や工期短縮によるコストダウンを行う事例もあります。

このように、選定にあたってさまざまな要因が考えられますが、これらの要因を総合的に判断し、最適と思われる構造種別等を決めることが重要になります。

3.工事監理の大切さ

「工事監理」とは建築主の立場に立って工事を設計図書と照合し、工事が設計図書のとおりに実施されているかどうかを確認することです。この工事監理は、建築物の安全性等を確保するためには確実に実施されなければなりません。そこで、建築基準法では、工事監理者を定めなければならないとしており、また中間検査や完了検査の申請の際には申請書の中に工事監理の状況の報告を記載しなければならないこととなっています。

モノづくりの観点からは、設計した内容が現場でどうつくり込まれていくか、その生産体制を理解し、その内容を設計に反映させるとともに、監理によって確認することもまた肝要です。

しかしながら、構造計算書偽装問題や欠陥住宅問題などを通じて、監理が適切に機能していない実態が明らかになっているとの指摘があります。また、監理が適切に行われていれば防ぐことができたと思われる欠陥住宅などの被害も多くあります。

特に構造に関わる施工ミスは後から修繕するのは容易ではなく、建築物の安全性に深刻な影響を及ぼす可能性があります。こうした事態を防ぐためには、構造を含めた建築全般に関する幅広い知識をもった技術者(例えば構造一級建築士)が、細心の注意を払って監理業務を実施する必要があります。