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構造躯体最適化 2021.04.01

大空間建築物(物流倉庫・工場・店舗・体育館)に適したスパンと建築構造


建築の構造には、鉄筋コンクリート造(RC造)、鉄骨造(S造)、木造(W造)などさまざまな種類があります。 これを「構造種別」といいます。 この記事では、物流倉庫や工場、店舗、体育館などの用途目的を想定した、いわゆる「低層大空間建築物」に適した構造種別について説明します。

1.代表的な構造種別RC造、S造、W造の特徴と主な用途

構造種別は使用される材料によって分類されます。 建築物の主な構造種別には鉄筋コンクリート造(RC造)、鉄骨造・鋼構造(S造)、木造(W造)などが挙げられます。

構造はそれぞれに得手不得手があるため、建築物の用途(目的)に合わせてどの構造が適しているかを決めていきます。

鉄筋コンクリート造(RC造)、鉄骨造(S造)、木造(W造)の主な特徴は以下のようになります。

構造種別 特徴 主な用途
鉄筋コンクリート造(RC造) 耐火性が大きく圧縮力に強いコンクリートと、引張力に強い鉄筋の特性を活かす一体的な構造 主に中高層マンションからビルなどで採用される。低層の集合住宅や一般住宅でも見られる
鉄骨造(S造) H型や箱形などの断面形状をした鋼材を組み立て、骨組をつくる構造 住宅から超高層建築物まで、幅広い用途で用いられる
木造(W造) 加工性に優れた木材で、柱や梁などを組み立てる構造 主に一戸建てや3階程度までの低層住宅に採用される

物流倉庫や工場、店舗、体育館では「大スパン空間」「ローコスト」に重きが置かれ、デザイン性を強く求められるケースは少ないです。 そういった実態を考慮し、鉄筋コンクリート造(RC造)、鉄骨造(S造)、木造(W造)のそれぞれを「空間確保」「部材サイズ」「工期」「価格」の4点に着目して比較してみましょう。

それでは鉄筋コンクリート造(RC造)から説明します。

2.比較結果①鉄筋コンクリート造(RC造)はデザインの自由度が高い

鉄筋コンクリート造は引張力に強い鉄筋を、圧縮力に強いコンクリートで覆った構造体です。 Reinforced Concreteを略してRC造と呼ばれます。 耐火性・耐久性・耐震性・防音性に優れており、デザイン性の自由度が高いことが特徴です。

鉄筋コンクリート造(RC造)の特徴をまとめた表がこちらです。

項目 内容
空間確保
  • 標準スパンは10m以下
  • 10mスパンを超える場合はプレストレストコンクリート梁等を使用
部材サイズ
  • スパンが大きくなるに比例して、部材サイズも大きくなる
  • 目安として梁せいはスパンの1/10程度
工期
  • 鉄筋の組立て、コンクリート打設などの現場作業が多い
  • コンクリートの養生期間が必要となる
価格
  • 鉄筋、型枠、コンクリートなどの材料自体は他の材料に比べて安い
  • スパンが大きくなるに伴い、各部材も大きくなるためコストアップ傾向

物流倉庫や工場、店舗、体育館などの用途では、柱梁スパンに大きな空間が求められますが、RC造のラーメン構造であれば通常は10mスパンくらいが限界になります。それ以上であればプレストレストコンクリート梁などが使用されます。

柱梁スパンが大きくなるに比例して、部材サイズも大きくなります。 そして、それに伴い建物自体の重量(=地震力)も大きくなります。 そのため、部材コストだけでなく、軟弱地盤などに建築する場合には、重い荷重に耐えられるよう杭や地盤改良の追加コストが発生します。 また鉄筋の組み立て、コンクリート打設等の現場作業が多くなるので、工期は長くなります。

このように鉄筋コンクリート造(RC造)、鉄骨造(S造)、木造(W造)の3つの構造のなかで、最も費用と工期がかかります。

次に鉄骨造(S造)を見ていきましょう。

3.比較結果②鉄骨造(S造)は20~50mの大スパンに対応できる

鉄骨造は材料強度が高い鋼材を用いた構造体です。 Steelを略してS造と呼ばれます。鉄骨造(S造)の最大の特徴は、材料強度が高いかつ自重が軽いため20~50mくらいの大スパンに対応できる点です。

鉄骨造(S造)の特徴をまとめた表がこちらです。

項目 内容
空間確保
  • 標準スパンは10~20m
  • 20~50mの大スパンにも対応できる
部材サイズ
  • ラーメン構造やブレース構造など
  • 目安として梁せいはスパンの1/15~1/20程度
工期
  • 外壁等もALCや鋼板といった乾式工法が多い
  • 一部デッキスラブ等でコンクリートの養生期間が必要となるが、RC造ほどは長くならない
価格
  • 材料(鉄骨)自体は比較的高価だがあるが、自重が軽いため基礎を含めて建築躯体コスト最適化を図ることができる
  • 工期が短いため、人件費・工事費・機材等にかかる経費を抑えられる

鉄骨造(S造)の一般的な建物重量は、鉄筋コンクリート造(RC造)が10〜15kN/㎡なのに対し6〜10kN/㎡と、30〜40%程度の軽量化が図れます。 そのため地震力が小さくなり、大スパンを有する物流倉庫や工場、店舗、体育館などの用途に適しています。 ただし部材サイズは構造計画によって大きくなる場合も、小さくなる場合もあります。

鉄筋コンクリート造(RC造)とは異なり各部材を工場で製作し、現場では組み立て作業だけとなるため、価格は鉄骨数量に依存します。 また工期は現場作業の省力化により短くなります。

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まとめ木造(W造)を見てみましょう。

4.比較結果③木造(W造)は基礎部分のコストを抑えられる場合あり

比強度(単位重量当たりの強度)が高い木材を用いた構造体です。 Woodを略してW造と呼ばれます。木材は繊維方向等により断面内で特性が異なるため注意が必要です。 しかし現在では一般的な製材に加えて強度の向上、方向性の平均化が行われた集成材、CLT、LVLなどのエンジニアリングウッドがあり、木造戸建て住宅等に加え、より大規模な建築が実現できるようになっています。

木造(W造)の特徴をまとめた表がこちらです。

項目 内容
空間確保
  • 大断面集成材やトラス構造の採用により大スパン構造も可能
部材サイズ
  • 梁せいは150mm~450mmのものが、一般的な流通材として利用可能
  • 使用部材や計画に依存
工期
  • 工法によって施工の難易度に幅がある
  • 外壁等は乾式工法となり、工事現場での作業期間は短い
価格
  • 一般流通品である規格製材を用いた場合はローコストとなるが、性能の優れた材(強度、断面サイズ)を採用する場合はコストアップの傾向がある
  • 建物自重が軽く、基礎に要するコストが低くなる

空間が大きくなればなるほど、固定荷重や積載荷重も大きくなり、戸建住宅とは異なる部材(大断面集成材等)やトラス構造を用いた計画を選択する必要があるうえに、必要とされる防耐火性能も高くなります。 そのため、部材断面は大きくなります。 大空間を作る場合、一般流通材を戸建住宅のように使用することが難しいため、コストアップの傾向があります。

しかし、木材そのものが鉄筋コンクリート造(RC造)や鉄骨造(S造)と比べて軽量なため、基礎に要するコストを安く抑えられる場合があります。 S造と同様にW造も部材を工場で製作(プレカット)し、現場で組み立て作業を行います。

以上が鉄筋コンクリート造(RC造)、鉄骨造(S造)、木造(W造)の特徴です。 これらの特徴を踏まえ、物流倉庫や工場、店舗、体育館などの「低層大空間建築物」に適した構造種別を絞り込んでいきます。

5.物流倉庫・工場・店舗・体育館に適した構造種別はこれだ!

「大空間」「ローコスト」が特に重視されやすい物流倉庫や工場、店舗、体育館などの「低層大空間建築物」において重要となる「空間確保」「部材サイズ」「工期」「価格」に着目して比較を行うと、以下の結果になりました。

項目 鉄筋コンクリート造(RC造) 鉄骨造(S造) 木造(W造)
大空間確保
部材サイズ
工期
価格 ×
耐火性・遮音性 ×

見ての通り、これらの項目においては鉄骨造(S造)が総合的に秀でていることがわかります。

「防火性能」「遮音性能」「木のぬくもり」といった項目は今回の着目点には加えませんでした。 しかし、デザイン性を優先した体育館やアリーナの場合には、木造(W造)や鉄筋コンクリート造(RC造)が適する場合もあります。

6.まとめ

建築物の用途に合わせて適する構造を選定するためには、荷重条件や性能、施工性、敷地条件、費用などのさまざまな要因と、生産から設計、施工までの一連のプロセスを考える必要があります。

特に躯体コストの2割以上を占める基礎形式においては、建物自体の自重の大きさが躯体数量に直結することはもちろんですが、上部構造でどのような計画を行うか、ということも大きな影響を与えます。 構造設計者はこれらを総合的に判断し、最適と思われる構造種別(システム)を決めることが重要になります。

構造躯体を最適化する工法について
さくら構造は、構造形式や構造材料の特性を活かした自社工法を開発しています。 詳しくは「構造躯体最適化工法」をご覧ください。

7.この記事を監修した人

この記事は、構造設計一級建築士資格を有する、構造設計の専門家が監修しています。

さくら構造株式会社
代表取締役 田中 真一

耐震建築家、一級建築士、構造設計一級建築士

執筆者の詳細

さくら構造(株)は、
構造技術者在籍数日本国内TOP3を誇り、
超高層、免制震技術を保有する全国対応可能な
数少ない構造設計事務所である。
構造実績はすでに5000案件を超え、
近年「耐震性」と「経済性」を両立させた
構造躯体最適化SVシステム工法を続々と開発し、
ゼロコスト高耐震建築の普及に取り組んでいる。