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免震・制震・地震応答解析 2018.04.07

耐震構造・制震構造・免震構造|耐震性の種類を解説


建物を支える構造形式には建物を強くする「耐震構造」、地震の揺れを吸収する「制震構造」、建物に地震の揺れを伝えにくくする「免震構造」があります。 この記事では、耐震構造、制震構造、免震構造それぞれの構造形式と耐震性の違いについて説明します。

1.耐震構造、制震構造、免震構造のメリット・デメリット

建物はすべて「構造」で支えられています。柱や梁などの構造がしっかりしていてはじめて、建物は機能や安全を維持できます。 構造は人間の体で言えば骨格に当たる重要な要素で、台風や地震などの自然の脅威から建物を守る役割を担っています。

特に地震国・日本ではその重要度が高いことは言うまでもなく、地震に強い家を建てたいのならば基本的な事は知っておきたいところです。

耐震構造、制震構造、免震構造それぞれのメリット・デメリットを簡単にまとめると、以下の表のようになります。

メリット デメリット
耐震構造
  • 建設コストが安い
  • 工期が短い
  • 自由に設計しやすい
  • 上の階ほど揺れが大きくなる
  • 家具の転倒などによる事故が起こりやすい
  • 繰り返しの揺れに弱い
制震構造
  • 建設コストが耐震と免震の中間で、揺れに強い
  • メンテナンスが容易
  • 台風などによる揺れにも強い
  • 装置の設置場所や数が効果に影響する
  • 地盤の影響を受けやすい
免震構造
  • 地震による揺れが小さい
  • 家具が倒れにくい
  • 建物内部の損傷を防止できる
  • 横揺れの地震以外には効果を発揮しにくい
  • コストが高い

2.「耐震構造」は地震の揺れに耐える構造

耐震構造は、地震が起きた時に柱や梁、壁で地震の力に抵抗します。 つまり、建物の構造体を強くすることで耐震性能を高め、地震の揺れに耐える構造と言えます。

現行の耐震基準(新耐震基準)は、震度5強程度の中規模の地震に対しては、ほとんど損傷が生じず、極めて稀にしか発生しない震度6強から震度7程度の大規模の地震に対しては、人命に危害を及ぼすような倒壊等の被害を生じないことを目安としています。 ただし、ひび割れや一部損壊、建物が傾くことは許容しています。

耐震構造は、極めて稀にしか発生しない大規模の地震に対しては建物の骨組みが損傷(主に梁が塑性化し永久変形)することで地震エネルギーを吸収します。 そのため、結果的に部材の損傷や、建物の傾きが発生する構造になります。

3.「制震構造」は地震の揺れを吸収する構造

制震構造は、建物の構造体に取り付けた錘やダンパーなどの制震装置で地震エネルギーを吸収することによって、建物の揺れを小さくする構造です。 よって耐震構造に比べて揺れを抑えられるため、建物の骨組みは弾性変形範囲にとどまり、柱・梁の損傷を防ぐことができます。

また、建物の変形も押さえられることから、居住者の揺れによる恐怖感も少なく、耐震安全性や機能性、居住性の向上を図ることができる構造です。 一般的には、耐震性が耐震構造より優れています。さらに鉄骨造の高層ビルなど、風揺れ対策を目的に採用されることが多いです。

4.「免震構造」は地震の揺れを建物に伝えない構造

免震構造は、建物と基礎の間に積層ゴムなどの免震装置を設け、地震による揺れが直接建物に伝わらないようにした構造です。 つまり地震によって地盤が激しく揺れても、建物は地盤の揺れに追随せずゆっくり動き、地盤から地震力を受けなくなります。

免震構造では大地震時に構造体が損壊することはほぼ無く、建物が傾くといった地震の被害はほぼなくなります。 耐震構造、制震構造に比べて耐震性能は最も高くなります。

5.耐震構造、制震構造、免震構造の地震が起きた時の動きを比較してみた

建築の構造形式である耐震構造・制震構造・免震構造は、地震による揺れのイメージもそれぞれ異なります。

揺れに耐える耐震構造、揺れを吸収する制震構造、揺れを伝えない免震構造の、地震に対する動きをそれぞれ比較してみましょう。

耐震構造 制震構造 免震構造
建築構造 柱や梁、壁で地震の力に抵抗 建物の構造体に取付けた制震装置により、地震エネルギーを吸収 建物と基礎の間に免震装置を設け、揺れが直後建物に伝わらない
揺れを抑えるしくみ
(ブランコに例えると)
「足(=柱や梁、壁)」を地面に突っ張って、ブレーキをかけます。「足(=柱や梁、壁)」に負担がかかり、揺れが大きい場合は、「けが(=ひび割れ、破壊、倒壊)」をしてしまいます。 身体に負担がかからないように、「足(=柱や梁)」に替わって「クッション(=ダンパー)」を地面に突っ張り、ブレーキをかけます。 「ブランコ(=建物)」は「地面」から縁が切れた状態で支持されているので、揺れは伝わりません。
実際に地震に遭遇したときの状態 共振現象が起こるため、建物の揺れの大きさは、地面の揺れよりかなり大きくなります。 特に高層部は地面の揺れの5倍を超える場合もあります。 共振現象を抑える効果が期待できるので、建物の揺れの大きさは地面の揺れより若干大きい程度にできます。 図のように完全に地面から縁を切ることは不可能なので、建物に伝わる揺れは0にはなりませんが、耐震構造に比べて最高で1/5程度にまで小さくすることができます。
代表的な建築物 六本木ヒルズ森タワー
竣工:2003年
階数:地下6階地上54階
構造種別:SRC造(柱CFT造)
国立西洋美術館
竣工:1959(1998)年
階数:地下1階地上3階
構造種別:RC造(免震レトロフィット)
実績数※ 約1,400棟 約9,300棟

※1999年以降2017年までの免震建物及び制振建物の棟数のデータ集積結果/一般社団法人日本免震構造協会より

6.耐震設計をしていても建物が壊れないとは言い切れない!

建築物の構造設計は「建築基準法」に基づいて行われます。 耐震設計に関しては2段階の地震力に対しての設計を行うことになり、それぞれ一次設計、二次設計と呼ばれています。

一次設計は「稀な地震」あるいは「建物存在中に数回受けるであろう地震」に対して設計し、 建物の損傷を防ぐことを目的としています。
二次設計は「極めて稀な地震」あるいは「数百年に一回程度発生する可能性のある地震」に対して設計し、建物の被害はある程度許容しますが倒壊を防ぎ、人命を守ることを目的としています。

しかし、このように設計された建物でも注意する点があります。 それは建築基準法は最低限を定めた基準ということです。 大きな地震を受けた場合に人命を守ることはできますが、建物には被害が生じる可能性がある、ということです。 地震による建物の被害を減らし、安全性をどこまで高めるかは、構造設計者と協議する必要があります。

6-1.耐震設計における構造計算の重要性

建物の耐震性能をどこまで高めるかを協議する場合、その提案は構造設計者によってさまざまです。 地震に対する安全性を高めるためには「柱や梁を大きくする」「壁の量を増やす」ことが一般的ですが、建築材料が増えるためその分、建築コストも増加します。 もちろん、免震構造や制震構造といった技術を用いることで地震に対する安全性を高めることも可能でしょう。 このように、平面計画における空間の使い勝手や費用対効果を考えながら、地震に対する安全性をどこまで高めるか決めていくことが重要になります。

地震に対する安全性と費用対効果をバランスよく決定するために必要なのが、構造設計(構造計算)です。
構造設計とは、個々の建築物に最適な構造形式を提案し、 建築に作用するさまざまな力を理解し、その力によって構造体にどういう現象が起きるかを把握することです。

特に耐震構造に比べて制震構造、免震構造は「地震応答解析」という複雑で高度な設計が求められます。 すなわち、構造設計のさまざまな局面で、経験を積んだ構造設計者の判断が必要となります。

※地震応答解析とは、地盤や建物の各部がどのような力を受けるかなどを調べるために、地盤および建物、構築物を適切な解析(計算)モデルに置き換え、設計用の地震動を計算し、各位置が受ける力と揺れの大きさを算出すること。

さくら構造は免震、制震設計を行える数少ない構造設計事務所です
詳しくは「免震・制震・地震応答解析」をご覧ください。

7.まとめ

建築の構造形式には耐震構造・制震構造・免震構造があり、それぞれの地震による揺れのイメージが違うことが理解できたと思います。 また、建築構造の安全は、本来は確定的に決められるものではなく、その度合いも一義的なものでなく、建築基準法などの法律は最低水準を社会的な合意として規定していることも分かっていただけたと思います。

構造設計は安全性に関して社会への説明責任を担うことから、法律への適合が求められています。 しかし、適法であることだけでは安全で機能を維持した建物とは言えません。 安全性を備えた良質な建物は、構造設計者の技術力・工夫・配慮によって達成されるものです。

構造設計者は、様々な施工技術・技能の実態を理解した上で設計を進め、建物構造の品質を確保しつつ、建築する地域の状況やプロジェクトの規模などに応じて適用可能な技術および構造材料を前提に、構造設計を行っていきます。

耐震性と経済性の両立をモットーに低価格高耐震設計を行う「高耐震設計グループ」のさくら構造としては、居住性と耐震性能を兼ね備えた建物を実現するには、経験を積んだ構造設計者の判断が必要だということがご理解いただけたのなら、喜ばしい限りです。

耐震基準の上をいく「TSUYOKU」
「大破しないこと」を目指した、さくら構造の新基準

8.この記事を監修した人

この記事は、構造設計一級建築士資格を有する、構造設計の専門家が監修しています。

さくら構造株式会社
代表取締役 田中 真一

耐震建築家、一級建築士、構造設計一級建築士

執筆者の詳細

さくら構造(株)は、
構造技術者在籍数日本国内TOP3を誇り、
超高層、免制震技術を保有する全国対応可能な
数少ない構造設計事務所である。
構造実績はすでに5000案件を超え、
近年「耐震性」と「経済性」を両立させた
構造躯体最適化SVシステム工法を続々と開発し、
ゼロコスト高耐震建築の普及に取り組んでいる。