この記事では、建物構造の種類として代表的なRC造(鉄筋コンクリート造)、WRC造(壁式鉄筋コンクリート造)、S造(鉄骨造)、SRC造(鉄骨鉄筋コンクリート造)の基本的な考え方をご説明します。
また、構造種別ごとのメリット・デメリットもあわせて解説します。
建物を計画する際、構造設計者が最初に決めることのひとつに、建物構造の種類が挙げられます。 現在、広く用いられている建物構造の種類にはRC造(鉄筋コンクリート造)、WRC造(壁式鉄筋コンクリート造)、S造(鉄骨造)、SRC造(鉄骨鉄筋コンクリート造)などがあります。
建物を設計するときに、建物構造の種類をどのように決めていけばよいのかは構造設計者の悩みどころです。 また、意匠設計者や設備設計者にとっても、平面計画を作成していくためには、柱の位置や大きさを確認する必要があります。 設備計画を進めていくには給排水や空調配管の経路を決めるための、梁せいや床構造の確認が必要になってきます。 このように建物構造の種類の選定は、建物の基本計画の段階で重要事項のひとつとなります。
中低層建物で一般的に採用されている建物構造であるRC造(鉄筋コンクリート造)、WRC造(壁式鉄筋コンクリート造)、S造(鉄骨造)、SRC造(鉄骨鉄筋コンクリート造)の特徴は、簡単にまとめると下の表のようになります。
■主な建物構造の種類と特徴まとめ
特徴 | 採用用途の傾向 | |
---|---|---|
RC造 |
|
集合住宅等 |
WRC造 |
|
低層(5階以下)の集合住宅等 |
S造 |
|
商業施設・工場等 |
SRC造 |
|
タワーマンション オフィスビル等 |
ここからは、RC造(鉄筋コンクリート造)、WRC造(壁式鉄筋コンクリート造)、S造(鉄骨造)、SRC造(鉄骨鉄筋コンクリート造)それぞれを、さらに詳しく見ていきましょう。
RCとは、Reinforced Concreteの略で、鉄筋コンクリート構造のことを意味します。 RC造の特徴として耐火性、耐久性が高く、遮音性や居住性に優れているため、中低層の集合住宅等で採用されるケースが多くみられます。
■メリット
・鉄筋、型枠、コンクリートなどの材料自体が他の材料に比べ安価なため、構造躯体コストを安くできる
■デメリット
・重量が重いため、比例して地震力が大きくなる
・鉄筋の組立て、コンクリート打設などの現場作業が多くなるため工期が長くなる
WRCとは、Wall Reinforced Concreteの略で、壁式鉄筋コンクリート構造のことを意味します。 RC造と同じく鉄筋コンクリート造ですが、柱はなく、開口上の壁と同厚の梁と壁で構成されています。 室内へ柱や梁が出っ張らず、すっきりとした空間をつくれることから、戸建住宅や低層の集合住宅などによく用いられます。 強度も優れており、過去の大震災において、倒壊はもちろん大きな被害を受けた例がない構造です。
■メリット
・居室内のデッドスペースが生じにくい
・6面体として地震や台風の外力を受け止めるため、強度的に優れる
■デメリット
・耐震性などを確保するために壁量(一定以上の壁の長さや厚み)が必要となる
・壁に設置するドアや窓の場所が限定されるため、間取りの自由度が限定されてしまう
壁式構造のデメリットを克服できる自社工法
さくら構造では、WRC造(壁式鉄筋コンクリート造)のデメリットである間取りの自由度の低さを解消する自社工法「壁式構造躯体最適化SVシステム工法」を開発しました。
S造とは、Steelの略で、鉄骨造のことを意味します。 S造の最大の特徴は、自重が軽く、材料強度が高い鋼材を用いることで、大スパンに対応できる点です。 また、S造の一般的な建物重量は、RC造が10〜15kN/㎡なのに対して、6〜10kN/㎡と30〜40%程度の軽量化が図れます。
■メリット
・地震力が小さくなり、中高層の事務所ビルや大スパンを有する工場などに適している
・部材は工場で製作、現場は組立作業だけになるため、工期短縮が実現できる
■デメリット
・遮音性が劣る
・耐火性能が低い(耐火被覆が必要)
・座屈の問題により揺れやすい
※地震力…地震によって建物に働く力(加速度)のこと
SRCとは、Steel Reinforced Concreteの略で、鉄骨鉄筋コンクリート構造のことを意味します。 S造の長所「軽くて強い」と、RC造の長所「圧縮に強い」を兼ね備えているのが特徴です。 大スパンの計画(RC造の標準スパンが8m程に対し、SRC造は15m程)や高層建築物に用いられます。
■メリット
・RC造に比べて耐震性に優れ、柱や梁の断面も小さくできる
■デメリット
・現場での作業工種が増え、施工計画が煩雑になるためコストは割高になる
建物構造のデメリットを克服する工法
さくら構造は、構造形式や構造材料の特性を活かした自社工法を開発しています。
詳しくは「構造躯体最適化工法」をご覧ください。
建物構造の選定にあたって考慮しなければならない主な項目には、建物用途、建物高さ(規模)、スパン、荷重条件、居住性能、コスト、工期、施工性、敷地条件などが挙げられます。 ほかにも地盤状況の確認による基礎形式の選定、コスト、工期なども考えなければなりません。
特に構造躯体コストの2割以上を占める基礎形式については、建物自体の自重の大きさによって変わります。 当然、軽いほうが基礎の大きさを小さくできるため、コスト的には有利になります。 例えば、一般的なS造の建物重量は、RC造と比べて30%程度の軽量化が図れるため、直接基礎や摩擦杭などの採用も可能となり、基礎形式の選定幅が広がります。
また、ここ数年は型枠工事や人件費、さらには資源の高騰による建築コストの上昇という懸念もあります。 そこで現場作業を省力化するために、プレキャストコンクリート※を採用するのもひとつの方法です。 現場作業の軽減や工期短縮を図ることで、建築躯体コスト最適化を行う事例もあります。
このように、選定にあたってさまざまな要因が考えられます。 これらの要因を総合的に判断し、最適と思われる構造種別を決めることが重要になります。
※プレキャストコンクリート…現場で組み立て・設置を行うことを前提に工場などであらかじめ製造されたコンクリート製品のこと
兵庫県南部地震(1995年)以降、新潟県中越地震(2004年)、東北地方太平洋沖地震(東日本大震災)(2011年)、熊本地震(2016年)など、大きな被害をもたらした地震の発生により、耐震性能向上に対するニーズが増えてきています。
同じ地震力を用いて設計を行ったとしても、構造の種類によって地震の時の揺れ方や被害の様子は大きく異なります。 例えば、低層の建物より高層の建物のほうが、RC造で作られた建物よりS造で作られた建物のほうが、揺れを感じやすくなります。 また、同じRC造の建築であっても耐震壁付ラーメン構造などの壁が多い構造種別やWRC造は、地震の揺れや被害が少なくなります。
さらに、構造の配置バランスも重要です。 特に耐震壁の配置が平面的に偏っていると、捩れることにより被害が大きくなる可能性があります。 また、階の上下で耐震壁の量が偏っている場合には、耐震壁の少ない階に地震力が集中することがあります。 このような構造は避けるべきものです。
近年の耐震性能向上のニーズに対応するため、耐震性能を大きく向上させる技術として「免震」や「制震」が多く採用されています。
免震とは、建物と基礎の間に積層ゴム等の免震装置を設け、地震による揺れが直接建物に伝わらないようにする技術です。 制震(制振)とは、建物の構造体に取り付けた振動軽減装置(錘やダンパー等)を組み込むことで、地震エネルギーを吸収して、建物に粘りを持たせて振動を抑え、建物の揺れを小さくする技術です。 前述した巨大地震に対しても、これらの有効性が実証され、住宅などの小規模建物にも採用されるケースが広がっています。
また、最近は鉄骨、鉄筋、コンクリートなどの構造材料が目ざましく超高強度化してきています。 まだまだコストが高い材料もありますが、今後は高強度材料を用いることで、大スパンへの対応や部材断面を小さくすることも可能になります。
これらの新しい技術を採用することも耐震性を高める有用な手段です。 しかし、優秀な材料に依存するのではなく、まずはさまざまな構造的な配慮・工夫や既存技術の組み合わせなどによって、耐震性を確保することが重要です。
今回は、建物構造の選定において代表的な構造種別であるRC造、WRC造、S造、SRC造の特徴や、それぞれのメリット・デメリットをご紹介しました。 建物構造の選定は構造設計の基本であり、建物の用途や規模、スパン、コストなどの要因を総合的に考慮する必要があります。 また、近年は耐震性能向上のニーズが高まり、免震や制震技術の導入、構造材料の進化による高耐震化が進んでいますが、基本的な構造設計の原則を遵守し、適切な工法を選ぶことが重要と言えるでしょう。
この記事は、構造設計一級建築士資格を有する、構造設計の専門家が監修しています。
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構造技術者在籍数日本国内TOP3を誇り、
超高層、免制震技術を保有する全国対応可能な
数少ない構造設計事務所である。
構造実績はすでに5000案件を超え、
近年「耐震性」と「経済性」を両立させた
構造躯体最適化SVシステム工法を続々と開発し、
ゼロコスト高耐震建築の普及に取り組んでいる。