耐震診断・耐震補強設計 2018.03.30

耐震補強とは?


前回、「5.耐震診断とは」では設計図書と現地調査によって建物の強度を調べ、現在の建物の耐震性を確認し、耐震性能を評価することを書きました。

この耐震診断の結果、耐震性が不足していたとしても耐震補強を行うことで、大地震に対して、現在の耐震基準で建てられた建物と同等の耐震性を確保することが出来ます。

耐震診断によって補強が必要となった場合には補強計画、費用についての算出を行います。そして、耐震補強を行うのか、建て替えるのかを最終的に判断します。補強を行う場合は、目標の耐震性を実現するための補強設計を行う必要があります。その後、補強設計に従って、耐震補強工事を行います。

耐震補強とは

建物の内外部の壁、柱、梁の耐力や剛性、ねばり強さを向上させて、建物の耐震性能を高める方法を耐震補強と呼びます。耐震補強には様々な方法があり、耐震診断の結果に基づいて、建物の剛性・耐力のバランスは当然ながら確保したうえで、建物の使用性、施工性(建物を使用しながら施工可能とした工法)、工期やコスト等を考慮します。また耐震補強計画は、建物の構造特性や設置可能な場所の制約などもあり、以下の方法を組合せて行います。



一般に「耐震補強」と呼ばれているものは、技術的に「耐震」「制震」「免震」の3つに分けることができます。上記の木造、鉄筋コンクリート造(一部鉄骨造含む)で挙げた補強方法は「耐震」にあたり、建物の粘りや強さを補強し、大地震の際に建物が損傷しても人命の安全を確保することを目標にしています。また「免震」と「制震」は予測される地震に対し、より高い耐震性能を求める場合に採用される技術といえます。

耐震補強の目標設定

耐震補強を行うに当たり、その建物に応じた目標性能を設定する必要があります。一般の建物では、現行の建築基準法に従い、中小地震に対しては無被害で機能保持し、震度5強から6弱程度の大地震に対しては被害を軽微~小破程度にとどめ、さらに震度6強から7の強大な地震に対しても建物が倒壊することなく人命を保護することを目標として設定されています。

それに対し、学校など大地震後に避難施設として使用する建物や、病院、防災本部となる庁舎などの公共建物など大地震後にも機能を維持する必要のある建物では耐震レベルA、Bに上げて補強を行います(下表参照)。

さらに、業務継続の観点から耐震補強計画を進める場合、構造体の丈夫さだけでなく、電気や空調、衛生などの「設備」、つまり建物を使用する上で必要な「機能」や、仕上げ材などの二次部材への対策も考える必要があります。



耐震改修促進法等では耐震指標(Is値)の判定基準を0.6以上としており、それ以下の建物については耐震補強の必要性があると判断されます。

耐震補強を行い、Is 値を0.6以上確保すると「倒壊の恐れがなく安全である」と評価(レベルCの場合)されます。しかし、「倒壊の恐れがなく安全である」ということは、倒壊は避けることはできますが、地震による被害が全く生じないということではありません。

つまり、Is 値が0.6 以上であっても、地震の大きさや規模に応じて、二次的な壁や柱・梁にひび割れが生じる可能性があります。もちろんIs 値が大きくなると相対的に被害は少なくなりますが、壁量等の補強量を増やすことが必要となり、建築の機能に制限や影響が出てくることも考えられます。そのため建築としての機能を確保することと安全性のレベルとを考え合わせて補強内容を決めていくことが必要です。

既存不適格建築物の扱いについて

建築当時は適法であったものの、その後に法令が改正され、改正後の現行の建築基準関係規定に適合していない建築物を法律用語で「既存不適格建築物」といいます。ただし建築基準法では、原則として着工時の法律に適合することを要求しているため、建物を建てたときの状態で継続使用する限りは、法令の規定で不適合のまま存在することが許容されています(建築基準法3条2項)。また耐震性能や防火・避難に対する決まりごとに適合しない場合も既存不適格建築物となります。

耐震補強計画では,多くの場合、補強工事のみを単独で行うことは少なく、その他のリニューアルと同時に実施するケースが多いです。これは耐震補強工事の周辺工事(仕上げの撤去、復旧、建物利用者への配慮)との関連や電気や空調、衛生などの設備も更新することで、建築全体の性能向上、さらには建物の付加価値の向上が図れるといったメリットがあります。

そのため増築、大規模な模様替え等に伴い建築確認申請をする場合は、当該部分のみならず、建物全体について建築基準関係規定に適合しているかどうかの審査を受けることになります。既存不適格建築物の場合、建物全体が現行規定に適合するよう是正しなければなりません。

特に、高経年マンションの場合、建築後の建築基準法等の改正により、構造関係規定上の既存不適格(帯筋比、耐震性等)だけでなく、防火関係規定上の既存不適格(高層区画・竪穴区画、避難施設、排煙設備、内装制限、非常用昇降機・非常用進入口・非常用照明等)等が生じ、対応が必要となる場合があります。ただし現行規定への是正については、「既存不適格建築物に対する制限の緩和」措置が設けられており、制限緩和の範囲に該当する場合、確認申請時に適用が除外される規定があります。

また、既存不適格建築物に関する規制の合理化において、増改築等の全体計画を特定行政庁が認定した場合は、最終的に建築物全体で建築基準法に適合するよう、段階的な改修工事を行うことができるようになっています(建築基準法第86条の8)。

さくら構造(株)は、
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構造躯体最適化SVシステム工法を続々と開発し、
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