構造設計事務所 さくら構造 > 耐震診断・耐震補強設計 > 耐震強度偽造-姉歯(あねは)建築設計事務所その2
耐震診断・耐震補強設計 2005.11.24

耐震強度偽造-姉歯(あねは)建築設計事務所その2


設計風景の画像
設計風景の画像

 

 

  1. 01建築基準法 第一条
  2. 02氷山の一角なのか
  3. 03構造技術者の心境
  4. 04既存不適格の問題

建築基準法 第一条

この法律は、建築物の敷地、構造、設備及び用途に関する最低の基準を定めて、国民の生命、健康及び財産の保護を図り、もつて公共の福祉の増進に資することを目的とする。
普段基準法の第一条なんて見ないんですが、改めて読んでみました。
建築士の試験にも出た事ないだろうなぁ。
事件をおこした彼にも是非100回くらい読んで頂きたい。

氷山の一角なのか

いくつかのマスコミの記者の方が、こんな田舎の事務所まで来て、取材して頂きましたが、この質問がたぶん一番多い気がします。
「今回の事件は氷山の一角だと思いますか?」
ちょっと話がそれますが、例えば駐車違反も法律違反です。
みなさんも、ついヤッちゃった経験があるかもしれません。
私も最近は無くなりましたが、若い時はかなり罰金を払った記憶があります。
レッカーなんかされて車を取りに雪が降る中テクテク歩いている時「あ~なんて俺ってバカなんだバカバカ」と何度心でつぶやいた事か・・・。
話を戻しまして、建築業界の中でも、例えば駐車違反みたいなルール違反をしている噂はよく耳にします。そうする事で業者さんになにがしかのメリットがあるからなんでしょう。
そういう意味では他にも法を犯しているケースはたくさんあると思いますが、今回の事件は、駐車違反なんてレベルではないですよね。
例えるなら、重犯罪クラスのルール違反な訳です。
そんな常識を越えるルール違反(地震力を小さくする事でなくて”偽造”ですよ)が頻繁に行われているか?と言われれば、今回のケースはあくまで、特異なケースであり、頻繁にはない事件である事は断言できます。
私自身10年以上この仕事をやっていますが、こんな話は初めて聞きましたし、周りの技術者たちも誰に聞いても同様の反応です。
絶対もう一件もないかは、田舎の一技術者にはわかりませんが、一部の人たちが疑っているような「悪質な偽造が普通に行われている」というような状況はありませんので、安心して頂きたいと思います。
私の例えは、どうも変に勘違いされそうなので、お断りしておきますが、駐車違反程度ならやってもいい。
という意味ではありませんので、よろしくです。
もう雪道テクテク「バカバカ」なんて年ではないですから・・・。

構造技術者の心境

最近のTV報道を見て、本当に構造設計の知識を持った方って少ないんだなと感じます。
TVで解説している建築士が構造設計を知らないから、ちょっと的ハズレなコメントをしたり・・・
バルコニーのひび割れを見て「耐震上問題がある」みたいな報道や(オイオイ
「梁の大きさが下階から上階まで同じなのはおかしい」って、
それは耐震壁が付いている梁でしょ!?とTVにつっこみたくなる気持ちを押さえつつ、こういう報道を見るたび、こういう人たちに我々が構造設計した建物にダメ出しされてマスコミに取り上げられたら嫌だなぁ~と不安になる管理人の田中です。
今後、私が考えているような、業界の根本的問題にメスが入る事なく、我々の責任だけが増大し、この事件も、なんとな~く着地してしまうのかと思うと、怖くてまともに仕事ができなくなるんじゃないかと非常に不安がつのります。
おそらく同じような不安を構造屋さんは抱えている人がいると思います。
設計上のトラブルが発生した時、技術者側も自己防衛を考えなくてはいけないのか?

既存不適格の問題

既存不適格って言葉聞いたことある方もいると思います。
「聞いたことない・・・」
少し説明すると、古い基準で建てられていて現行基準を満たしていない建物の事を指して「既存不適格」と言います。
それは耐震基準だけでなく、建坪率・容積率とか耐火とかそいうのも全部含めて現在の法律から外れている建物の事です。
法律はその時代に合わせて、また技術の進歩にあわせて改正される物です。
そうすると、どうしても法律を満たしていない建物がどんどん増えてきます。
特に耐震基準の不適格は他の不適格要素にくらべて非常に深刻です。

  • 我が国の住宅については総数約4,700万戸のうち、約3,550万戸(約75%)が耐震性があり、約1,150万戸(約25%)が耐震性が不十分と推計されている。
  • その他の建築物については総数約340万棟のうち、約220万棟(約65%)が耐震性があり、約120万棟(約35%)が耐震性が不十分と推計されている。

住宅・建築物の地震防災対策の推進のために(住宅・建築物の地震防災推進会議)より

 

要は姉歯さんが設計した建物と同じくらいの耐震性能の建物が日本全国の建物全体の25%~35%くらいあるかもしれないって話です。
いや脅している訳ではないんですが、既存不適格の非耐震建物の保有耐力を計算したら、もしかすると検定比で姉歯氏と同じ0.3~0.5とかになっても我々からすると、全然不思議でも何でもないです。
今回の事件で「建物が危険なので即退去!」とか
「ホテルは営業を休止します」とか言ってますが、じゃー既存不適格の建物はどーすんのかと。
古い瓦屋根の旅館なんてもっと危ないかもしれない。
この件は、まだニュースなどでは取り上げていませんが、先日来た某新聞社の記者さんは、非常によく勉強されていて、この件については、いづれ特集して記事にしようと考えていると言っていました。
じゃーどうすればいいかって言うと、やっぱり耐震診断って話になるんですが、
これがなかなか普及しないんです。
耐震について勉強して、実際に対策をしようとすると、自分のお財布からお金をだして耐震診断・補強って事になります。
まして古い建物のためにお金使うのに抵抗があるのは一庶民の構造屋としては、非常によく理解できます。
そこで、個人的に思うのは、もう少し資産価値と耐震性能が直接目に見えるようにしてあげればいいのではないかと。
耐震診断 → 補強 → 資産価値大幅UP → オーナー儲かる
今現在、耐震性能と資産価値の評価は多少されているようですが、もっとです。
非耐震建物は資産価値=¥0(今回のマンションみたいに)なって、いけば耐震診断や補強が、決してオーナーにとってお金の面でもマイナスにならず、人命を守る意味でも、良いのではないかと勝手に提案してみました。
あとは、そういう価値観を持った人がたくさん増えてくれればOKなんですが。今回の事件で、すこし変わるかな?
一応お国も既存不適格の事は気にしているようで、法律を色々と調整して、なんとか非耐震の建物を減らそうとしているようですが、結局はその建物の持ち主、つまり、あなたが耐震の事をちゃんと考え、アクションを起こさなければ、周りが動いても意味ないです。
感情的に「もうここには住めない!」「ひどい」では無くて、今の日本の建築物の現状をもっとよく知って頂きたいと思います。
この業界は問題が山積みなんです。
だから建物を建てる時は施主は自己防衛を考えるべきなんだと思います。
でも情報が全然業界側から出てこないので、自己防衛と言っても、何をどうしていいか判らないですよね。
私一人が叫んでも、状況は変わらないと思いますが、私が出来る情報発信はこれからも続けて行こうと思います。
応援よろしく。

田中 真一
SHINICHI TANAKA

代表取締役

執筆者の詳細

さくら構造(株)は、
構造技術者在籍数日本国内TOP3を誇り、
超高層、免制震技術を保有する全国対応可能な
数少ない構造設計事務所である。
構造実績はすでに5000案件を超え、
近年「耐震性」と「経済性」を両立させた
構造躯体最適化SVシステム工法を続々と開発し、
ゼロコスト高耐震建築の普及に取り組んでいる。